八重山病
やいまやまいと読む。徳島に帰ってからスーパーに行くと、「波照間の黒糖を置いていない」と落胆する。それでもかろうじて見つけた沖縄黒糖の文字。急いで裏のパッケージをみると「ああ含蜜糖ではない。それに内地でつくっているじゃないか」。小さな菓子店に行くと「サーターアンダギーはありませんか?」と尋ねてしまいそう。中華料理店に入って「ゴーヤチャンプルーにしようかな」。居酒屋へ行くと「泡盛の銘柄は?」と聞いて「置いていません」と言われてしゅんとなる。

カレーチェーン店に備え付けられたお客様アンケートで「ゴーヤカレーをメニューに加えると売上高を8%伸ばすことができる」などと書く。

ふとんの上では三点セットを付けて枝サンゴやテーブルサンゴと熱帯魚と戯れるフリをする(むなし。でも徳島にもサンゴや熱帯魚は実はいる。ぼくはいつもゴーグルひとつで魚と戯れて遊んでいる。徳島で泳ぐのなら九月がベスト。過去十数年の水温や気温のデータ、太陽の強さ、風、クラゲなど総合的に判断したが九月の海に優る月はない。徳島県人なら一度県南の海で九月に泳いでごらん)。

ああ、だめだ。ここは徳島。八重山の食べ物が食べたいが、徳島で八重山の食べ物が手に入ってはいけない。やはり現地でしかないからいいのだ。八重山の風土のなかで八重山の人の手から買うべきもの。そこに咲いてこそ八重山。

次は波照間のニシハマや黒島の仲本海岸で星を見よう、根間楽器で新良幸人を探そうか、平久保崎で昼寝をするぞ、竹富小中学校を訪ねよう。丸八そばが食べたい、米原ビーチで泳ぐぞ、民宿白保で泊まろうかなどと幻想がとめどなく広がっていく。これはいけない。これではいけない。どうすればいい。

でもぼくは八重山では生きていけない。きっと四国の川が恋しくなる。広い河原、手ですくって飲めそうな水、アユが群れる岸辺。

でも八重山はいい。島に行けるから楽しい。島に行くなら八重山(やいま)。島に行くならいまややいま、やいまに行けないやまい、やばい。



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