二十一世紀から顧みる半世紀前の川平湾
石垣島屈指の観光地、川平湾では四月の平日にもかかわらず人の群れが絶えることはない。連休や夏休みなどの混雑が思い描かれる。岡本太郎がかつて美しさのあまり腰を抜かしたという川平湾へ行きたいと思ってから十数年が過ぎている。それゆえに限られた時間でいかにいい状況で見られるかを考えた。

人が少ないこと、風がおだやかでさざなみが立たないこと、太陽の高度が高ければ珊瑚礁が鮮やかに見えること、湾内が晴天の順光に照らされること(偏光フィルターによって鮮やかな色彩が浮かび上がる)。湾の地形や方角を考慮すると、よく晴れた平日の正午から13時ぐらいが最適との結論を出した(正午なら昼食時なので観光客も少ないだろうとの読みもある)。こうして晴れた日の正午前に川平湾に到着した。

上はミノルタ(ポジ)。下はデジカメ(キャノン)。もちろんスキャナーが原版ポジを生かし切っていないのだが、発色の傾向が微妙に違うようた。


いま目の前に川平湾がある。行きたいと思ってから十数年。その思いがどっとあふれる。けれど川平湾をじっくり見る前に展望台に向かう。川平湾と向きあう心の準備をしているのだ。

ところがすぐに団体客が押しかけてきた。到着後慌ただしくシャッターを切ったり携帯電話を縦に構えたり。それからすぐに職業カメラマンによって記念写真を撮る場所に陣取らされて二枚撮影すると、添乗員が「今度はグラスボートに乗りますので」と急かした。それでほとんどの人が不満もなくその場を立ち去っていく。もう少し見たい気持ちもあるのではないかと思ったが、それはぼくのような人間だけで、ほとんどの人はシャッターを押すことで安心して目の前の景色を見ていないことに気付いた。「見えている」と「見ようとする」は異なる。「見えている」から「見ようとしない」。こうして展望台からの川平湾は数十秒で記憶に刻み込まれることもなく団体客は行動計画を消化していく。

ところが、ぼくも長時間その場にいなかった。せいぜい半時間、光線や風、船の位置関係で変わる色彩や水底の様子を24ミリ、28ミリ、50ミリ、90ミリの単焦点レンズで眺めて楽しんだ。


湾奥からきび畑ごしに見る川平湾。

半世紀の流れのなかで観光地になった川平湾で、岡本太郎と同じ感動を共有することはできなかった。





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