長編詩 荒れる山脈 木頭村から 木頭村でユズを栽培しながら村議となり、ダム反対運動を30年にわたって続けてきた田村好(よしみ)さんの長編詩を紹介します。 |
長編詩 荒れる山脈 木頭村から/田村好さん 1 世の人々はその昔 阿波のチベットと木頭を呼ぶ 那賀川挟んで両岸は 山脈高く聳え立つ 光りを浴びた広葉樹 数百年の巨木は 大地にしっかと根をおろし ああ急峻の大森林 2 人もはいらぬ山奥の 曲がりくねった細い道 昼なお暗し自然林 微かに響く那賀川の 最上流の水源地 原生林の恩恵を 気づぬ人も数多し これぞ資源の大宝庫 3 昭和の戦争たけなわに 食料難から焼き畑 山を開いて粟や稗 野菜を作って食べた日々 父母を共に苦労した 山小屋暮らしの想い出は 少年時代の労作業 わが生命の桃源郷 4 兎や狸通る道 時にはキジや山鳥も 仕掛けた獲物の賢さに 負けるもんかと根気よく 動物たちとの知恵くらべ 獲物のかかった嬉しさは 少年時代の物語り 5 春の訪れ 青葉山 数十メートルの巨木も 見事な放の満開に 蜜を求めて蝶や蜂 昆虫類に小鳥たち 花から花へ飛び交わす その旋律と調和して 樹木の繁殖自然界 6 遥か遠くの他国から アカゲラ、ヒヨドリ、キヨビタキ、 クマベラ、啄木鳥飛来する 熊鷹、鷲にトンビなど 春から秋へと姿見せ 木の実や昆虫餌として 原生林の奥深く 鳥の鳴き声こだまする 7 原生林の木陰には リスや狸に兎鹿 猿と熊と野ねずみと 木の実求めて彷徨する 夜はムササビ空翔かけて 林の中を往来す 森は動物安住地 野生王国蘇れ 8 秋深まれば木の葉舞う 重なる落ち葉も昆虫の 餌や糧にと葉っぱ齧む 生物の糞やミミズたち 粉なれた土壌にバクテリア 微生物の繁殖が 肥沃の土地と変わりゆく 栄養源の落葉樹 9 自然林の風格は 数十メートルの巨木に ねじり登った葛かずら シラクチかずらに藤カズラ ブナやケヤキに樅ツガに 桜やカエデに栃の木と 啄木鳥つつく立て枯れや 巨木倒れて苔も生す 10 紙の原料ミツマタも 寒風ついて皮を剥ぐ 原木生かした炭焼きも 山村農家の収入源 楢やシデの木切り倒し 自然栽培椎茸も 自ら炭火で乾燥させ これぞ木頭の特産品 11 木材不足の終戦後 国是施行と林野庁 何が何でも針葉樹 植えよう育てよう杉桧 育苗植え付け下刈り等 どんどん繰り出す補助金 間伐間引きそらやるぞ 植えりゃいいんだ何処もかも 12 早く道掘れ林道を 木材パルプを運ぶ道 国や県も呼応して 本流支流と奥深く 何処も彼処も掘り起こし 山林崩壊続く道 儲けた人はどんな人 森林資源を壊す道 13 昭和35年頃 普及始めたチェンソー 白蝋燭の重傷を 背負うと知らず労務者 尾根や谷間にゴウゴと 響く架線に集材機 どんどん切り出すパルプ材 ああ水源地の大破壊 14 数百年を生き延びた 原生林の巨木は 岩盤深く根をはれど 伐採後の山肌は ツルツル坊主の高い山 根っこが腐って緩む岩盤 ガタガタ山の杉桧 倒れて地滑り雨毎に 15 木頭の山々大植林 杉や桧に覆われて 林は暗き密集林 除伐間伐急ぐとも 次第に進む老齢化 手入れ不足の人工林 襲った台風に山は割れ 自然の猛威に打つ手なし 16 二万三千三百ヘクタール 那賀川取り巻く木頭山 崩壊現場にたたずめば 山の手入れに気づく筈 緑のダムの必要性 広葉樹の保水力 水を飲む人使う人 もっと地元の声を聞け 17 場所がよければ杉ひのき 急斜面には広葉樹 針葉広葉の混合植 場所や環境見て育て 木頭山の七割は 村外地主が支配する 水源確保に山守れ 叫び続けて二十余年 18 広げて見よう四国地図 剣山南麓に木頭村 千数百米の山多く 人口二千と八百戸 そこから発する警鐘は 遥か彼方の惑星が百億光年の時を経て 微かな音と振動を送り続ける姿して |