緊急提言〜経営革新は企業若返りの妙薬 その5つのキーワードとは…
 企業や商店を訪問するたび、切羽詰まった状況を感じます。これを打破するための提案です。長いですが、ぜひ最後までお読みください。そして文中から宝物を発見してください。

1. 独自の土俵をつくる(BtoB、BtoC共通)

 独自の土俵とは、生活者や取引先が持つあなたの会社、商店のイメージのことです。「価格が安い」「安心できる商品をつくっている」「接客、顧客対応が良い」などさまざま。しかしいきなり独自の土俵をつくることはできません。一歩間違えば経営者の独りよがりになる危険もあるからです。だから最初の一歩は、顧客の声に耳を傾けることから始まります。

 しかし顧客の声をすべて取り入れたからといって、独自の土俵ができるわけではありせまん。顧客満足度には次の4つの段階があります。


 

「不満」が解消すれば「満足」するわけではない

 顧客の声に耳を傾けるというのは、「不満でない」状態ですが、それが「満足」とは限りません。「満足」に至らせるためには、提案が必要となります。ここから「脱マニュアルによる顧客満足創造」のプロセスが始まります。もちろんマニュアルを捨てるのではなく、マニュアル(ルール)を守ったうえで、さらに満足度を高めるためには、現場の「判断力」を高め、顧客満足という目的を達成するためには、スタッフ一人ひとりが経営者のごとく振る舞うことが求められるのです。これは製造業、サービス業、小売業すべてに言えることです。もちろん、そのためには「すること」「しないこと」を予め決めておき、それをみんなが共有していることが前提です。

 不満を起こさせない「マニュアル」接客では限界があります。その背景には、モノ余り、精神的な価値を求める「今」という時代があります。モノであふれている時代にモノが売れるでしょうか? まずは人の心の琴線に触れることから始めなければならないのではないでしょうか。100円で買っている品物が90円になったところでヒトは感動するでしょうか?

 さらに、売上高を年々増やしていくことが現実的な選択ではなくなっています。売上高を増やすということは、店舗や生産ラインを増強すれば可能ですが、それはモノが不足していた時代、つくれば売れた高度経済成長の頃の話です。
 売上高を無理に増やせばキャッシュフロー(資金繰り)が悪化します。例えば、押し込み販売。営業部隊が困ったときに経営者に数字の辻褄を合わせるために行う手ですが、これは単に先の需要を前倒ししただけ。それどころか無理な販売には、価格の譲歩(=利益率の悪化)と回収条件の緩和が付きまとい、キャッシュフローを悪化させます。

 売上至上主義を捨ててキャッシュフロー重視経営に転換するということは、場合によっては、回収の悪い取引先、ABC分析で手間がかかる取引先を切ることにより、あえて売上高を下げる、そのことによってキャッシュフローを改善する戦略もありうるのです。

 しかしここで提案したいのは、独自の土俵を築いて、ファンを増やし、利益率を獲得することで、売上に依存しない経営体質とすることです。それが現実的かつ自然な方策ではないでしょうか。右肩上がりの時代が再来することを信じて(あるいは過去の成功策に溺れて)沈没することは避けてください。


2. 経営資源の選択と集中(BtoB、BtoC共通)

 大企業であれ、個人商店であれ、経営に使える土台であるヒト(人材)、モノ(商品、設備)、カネ(資本)、情報(ノウハウ)は限られています。あれもこれもやろうとすると、独自の土俵をつくることはできません。すべての事業で認められることは大企業でも不可能です。だから一点突破で行きましょう。

 中小企業白書2002年版によれば、利益を伸ばしているのは、経営革新を行った企業です。なかでも効果があったのはITを活用している企業とされています。ITに求めるのは「シンプルな構図」、これに尽きます。ベンダーなどのITの技術者の意見はときにその視点を欠き、あれもこれもの提案となりがちです。しかしその人たちは実際にモノを売ったり、顧客満足をいかに作り出すかを真剣に取り組んだりしているとは限りません。もはやITは技術ではなくコミュニケーションの領域になったことに気付かないSEは少なくありません。能力の陳腐化した専門家に任せる前に、経営者とのして識見を示すことです。

 経営者は、経営に何が足りないのか、それを補うにはITをどの目的で活用すればよいかと目的を絞り込み、それができた時点で専門家と相談してください。そうしないと、ITの泥沼に入ってしまい、専門家の意見に振り回されて時間と手間をかけたが報われない結果となります。

 一例として、モノを売るために商品をあれこれ並べ、趣味のようなこだわりもあれこれ語り、インターネットですべて完結させるために決済方法にも手を出し、ホームページ作成講座に通うような状況です。専門家に任せる(アウトソーシング)することも視野に入れてください。経営に集中しないと今の時代、舵取りはむずかしくなっています。



3. 戦略=「すること」と「しないこと」を決める(BtoB、BtoC共通)

 独自の土俵をつくるためには「戦略」が必要です。それはとても簡単です。なぜなら、「すること」と「しないこと」を決めればいいからです。

 例えば、レストランを経営しているとします。テーマ(独自の土俵)は、「お客様に熱々のおいしい料理を召し上がっていただくこと」とします。そうすると、レジや接客に手が回らなくなるとことも予想されるとすれば、食券方式にするということも考えられます。「作りたてのおいしさをそのまま届ける」ことを大切にするなら、「安く提供する」「ていねいに時間をかけて接客する」といった要素を諦める(二兎追うことはできないので)、という方針もありえます。

 これが「すること」「しないこと」を明確にする(=戦略)の意味です。この場合は、熱々の料理を提供するための工夫、例えば、スタッフの動線管理、受注から調理までの工程管理、冬場対策などに知恵を注ぎお金を投資するでしょう。これが経営資源の集中という意味です。

 中途半端な戦略の一例として、「いいモノをそれなりの価格で売る」という土俵をつくろうとしているときに、お客様に言われたり相場が下がっていたりするので「安売り品も少し置いて幅広くお客様を拾っていこう」とすることです。こうすると、方針が定まらなくなり、お客様から見れば「ブランドの高いものと、ホームセンターにあるような安売り品を置いてある中途半端な店」になってしまいます。

4. 未来の利益を考える

 経営も自然界も共通点があるのは、循環していることです。つまり、種を巻いて育て、花が咲いて実がなるという循環は同じです。種を蒔くことは数年後の利益となることは誰でもわかりますが、何の種をどんな畑にいつどれだけ蒔くのかによって未来の利益は変わってきます。
 徳島のベンチャー企業十数社を訪問してわかったことは、やはり経営革新に取り組む企業はそうでない企業に比べて経営の総合通信簿とでもいうべき、総資産対経常利益率が違うのです。いうまでもなく、経営革新に取り組む事業所のそれが高いことは、中小企業白書でも明らかにされています。

 そこで、次の6つの視点で、経営者もスタッフも、役員もパートも一丸となって根を詰めて考えてみましょう。期限はまるまる1週間。それぐらい真剣にかつ全員一致で考えてみるテーマではないでしょうか。留意する点は、2割の上位客が、6〜8割の利益をもたらしていることです。

(1)顧客
現在、あなたの会社が対象としている顧客は誰ですか?
将来、あなたの会社が対象としている顧客は誰ですか?

(2)販売経路
現在、あなたの会社はどのような販売経路を使っていますか?
将来、あなたの会社はどのような販売経路を使いますか?

(3)競争相手
現在、あなたの会社の競争相手は誰ですか?
将来、あなたの会社の競争相手は誰ですか?

(4)優位性
現在、あなたの会社の競争優位の源は何ですか?
将来、あなたの会社の競争優位の源は何ですか?

(5)商品分野
現在、あなたの会社はどのような商品分野に参入していますか?
将来、あなたの会社はどのような商品分野に参入しますか?

(6)独自性
現在、あなたの会社の独自性はどのような能力から来ていますか?
将来、あなたの会社の独自性はどのような能力から来ますか?


5. 営業=プレゼンテーション力

(1)BtoBの場合

 会社の独自性、競争力の源をコア・コンピタンスと呼びます。それは利益を生み出す源泉です。幸い当社には、コア・コンピタンスがあるとします。ならばそれをどう伝えるか。

 「会社案内の作成…」という回答は不正解。一度作ればすぐに内容が陳腐化しているきれいなパンフレット(経営者はカタチから入る傾向があります)。それは、会社の実態を反映していない美辞麗句で飾られたもの。確かにリクルート対策には役に立つでしょうが、本来の目的である「必要な情報を必要な相手にわかりやすく」伝えることはできません。

 そこでパソコンの出番です。相手が欲しい情報を選び出し、相手先の名前を入れてわざわざしつらえた(=カスタマイズした)手製のプレゼン資料は、相手先にとって価値があるものです。ワードとエクセルと画像処理ソフトでできます。もちろん相手先別にゼロからつくるのではなく、予めつくった共通の土台に適宜加工すればよいのです。

モノづくりの棚卸(技術と製品の履歴)

 土台となる情報とは、製造業の場合なら、モノづくりの棚卸作業です。これまで当社がやってきた実績(工事履歴とか成果物、製造物、納入現場等の写真とキャプション)をカラープリンターで打ち出します。これを見ると、相手先は当社の実力や強みを推し量ることができます。
 新規取引を始めるに当たっては、情報を惜しみなく提供することです。留意点は、どこまで情報開示するかです。モノづくりの履歴のなかで相手先を特定されると相手先に迷惑がかかる場合、写真に相手先名を特定されないような加工が必要となります。また技術情報の開示は、情報だけ取られてさよなら、という結末もないわけではないので開示する情報については、社内の議論と合意が必要です。
 しかし情報を公開したからといって、実際に他社が製造できるとは限りません。普通は文字にできないノウハウや熟練の職人芸があるからです。

 こうして発信する情報は整理できたとして、どこにどのような手段で何を発信するかです。中小企業の場合、人脈は乏しいのです。そこで、インターネットの活用が視野に入ってくるわけです。

 自社のモノづくりの履歴(実績)や得意な技術、融通できるところを自社独自のWebサイトで発信します。BtoBのマッチングサイト(登録料が有償無償会員制非会員制を問わず)もありますが、ぼくは自社サイトのほうが融通がきいて良いと思います。あまたある企業のなかからどうすれば選ばれるか。これについては、「検索されること」「情報そのものの価値」の2つがポイントです。

 検索されること…あまたの検索サイトに登録せずとも、実は技術的なツボを押さえて普通作れば登録されます。Googleにおいて、どんな単語(または複数語)でどれぐらいの順位で検索されるかについては、定点観測が必要です。逆に言うと、Googleだけ留意すればよく、あとの検索ポータルサイトは忘れて構いません。

 情報そのものの価値…これは、これまで見てきたコア・コンピタンスを確立しているかどうか(=企業の力)、そしてそれをわかりやすく伝えているかどうか(プレゼンテーション力)の2つがモノを言います。

 発信した情報に興味を持つのは、当社の提案に対して潜在的なニーズを持っている未来の得意先候補です。こうしてWebサイトで興味を持ってくれれば、今度は電話や企業訪問という別ルートで接触があるはずです。BtoBの場合、Webの役割はここまでで充分です。すべての営業を完結させる役割を担わせるのではなく、あくまで必要な相手を探索し、相手に当社を接触してもらうための手段に限定して使う。

ITはシンプルな構図で使う

 ある意味では、BtoBのWebサイトは、シンプルなねらいのため、費用対効果が高いはずです。技術的な工夫としては、1ページがA4でプリントアウトしたときにちょうど良いサイズとなることです。考えてみれば、これは当然で、相手先にとっては、社内会議で検討したり上役に稟議を通すためには、画面を見せるのではなく、プリントアウトして使うからです。

 もうひとつのポイントとして、ページ数(というか情報量)は多いほどGoogle検索では有利です。ユニバーサルデザインに配慮する限り、ページ数はどれだけ多くても構いません。ただし制作費の上限は50万円程度に抑えましょう。

用途開発(提案)で、従来市場浸透または新市場開拓

 どこの会社も世界初の商品や世界で唯一(オンリーワン)の技術を求めて研究開発しています。しかし実際には世の中に世界でひとつというのは滅多にあるわけではありません。ところが、そうした技術や製品を持たないにも関わらず、総資産利益率が高い企業があります。
 それは、自社にあるコアスキルだけに頼らず、場合によっては他社、ときには競合企業から技術や製品を買って、それを自社のコアスキルと組み合わせて、まったく新しい用途に使うような提案をする場合だとか、同じ商品を少し応用して別の市場で販売する販路開拓ができている企業です。これは、まったく新しい製品・技術を開発して、まったく新しい市場で世に問う戦略に比べるとはるかにリスクは少なく得られる効果は大きいのです。

欲しいところに持っていけ

 世界初とか世界唯一の独自の製品や技術が滅多にないとしたら(言い換えれば、どこにでもある製品や技術、サービスを組み合わせて提案するとしたら)、企画力、営業力が大切ということはわかります。

 飛び込み営業であっても断られないことがあります。もちろん、一般家庭に歯ブラシを売るのではなく、建設会社に電子データ化のノウハウを売るための営業といったように、相手先に興味があるピンポイントの情報提供ができた場合です。

 そんな場合もありますが、一般的には飛び込み営業はなかなか大変です。しかしインターネットで発信しているこちらの情報に対し、アクセスしてきた相手は、能動的に知りたいという意思の現れです。もうあなたの会社のこと、事業のことをある程度わかっているので、まったく知らないところに押し掛けるのと違って、こちらが主導権を持って話を進めることが可能です。これが究極の営業「営業しない営業」です。一般に、BtoBサイトを主宰する必要がある企業は、技術や応用力、提案力はあるが、営業部隊がいないという場合が多く、そのため情報を提供して声をかけてもらうBtoBサイトをつくることは意義があります。これがBtoBにおけるWebサイトの役割なのです。

(2)BtoCの場合

シンプルな構図

 オンラインのみの販売で採算を取ろうとすれば、かなりハードルは高くなります。それこそ、Webですべての取引を完結させるためのさまざまな取り決めやルール、決済手段を駆使しなければなりません。オンラインのみで販売している事業所の苦戦が伝えられています。いまさら無店舗の事業所がゼロからオンラインショップを構築するのは手遅れでしょう。
 むしろ、店舗や実態のある商店、企業が、商圏内の潜在顧客にアピールする手段として、BtoCを位置付ければ、これもシンプルな構図のITとなります。早く言えば、ファンをつくるだけの役割で良いのです。
 
モノを売らないこと

 これもモノを売るためのサイトではなく、情報提供のサイトとし、実際は店頭へどうぞとう構図で充分です。地域内のお客様またはその友人知人は持っている確率が高くなってきたので、「商圏内」に限定しても充分に使えるようになってきたのです。最初に商品一覧があって買い物カゴが置いてあってもモノは売れません。見ず知らずの会社で、目の前に商品がない、触れることもできない、商品カタログ的なサイトでモノが売れるとは考えられません。

 伝える手段はパソコンばかりとは限りません。携帯電話をうまく使いこなしている料理店があります。なにかの理由を付けて、メニューを半額とか○割引などとして、携帯にメールを流し、画面を提示すると実際に割り引きが受けられるのですが、実際に割引の日に行くと、学生を中心に行列が1時間ぐらいできています。もちろんこうしたメリットがあることを店頭で告知し、メールアドレスを登録してもらって(送ることをお客様に了承してもらって)情報を提供しています。

 さて、商圏内の情報提供といえば、地域のポータルサイトがあります。例えば、年間数万円で登録しておけるものです。
 しかしいまだかつて成功した地域ポータルサイトは見たことがありません。その答えは簡単です。特定の目的を持たずに「何かないのかな」という気持ちで地域ポータルにアクセスする人が多いのが地域ポータル。顧客の心理的な態度が受け身なのです。これに対して、必要な情報を能動的に探していて検索で見つかるのが、自社独自サイト。ひながたに制約されることなく、思う存分情報を提供できます。

 情報の質のみならず、量はインターネットの場合とても大切な要素です。なぜなら、紙の印刷物と違って、必要なければ見ようとしないため押しつけがましくならないのです。詳しい情報が必要な人にとっては、扉をどんどん開けて踏み込んでいく喜びがあります。

行うべきはファンづくり(伝えたいことに共感してもらう)

 最初からモノを売ろうとしても、顧客心理からは売れないとすれば、どうすればよいのか。それが、ファンづくりにWebサイトを活用するということです。そうすれば、例え商品をWeb上に掲載していなくても、顧客のほうから「その商品、分けてくれないか」「店舗に行きたいので予めメールで相談に乗って欲しい」などと反応が来るようになります。結論から言うと、お客様の信頼を得て、共感していただき、ファンになってもらった段階でないと、モノは売れません。結果として売れるものなのです。プロセスを大切にすれば結果は自ずと出てきます。
 
 最後までお読みくださってありがとうございます。ここに書いた内容は、実践経験から得たものですが、実際に実施するとすれば、それぞれ文字にかけないノウハウがあります。
 経営革新をお考えの事業所、ITをシンプルに使いこなして利益を創出しようとお考えの経営者の方は、ぜひご相談ください。きっとお役に立ちます。また、Webサイト作成については、信頼できる作り手を選び、全体をコーディネートします。予算がおありになるでしょう。ぜひご相談のうえ、ご支援させてください。
 
中小企業診断士 平井 吉信