社風を変えたい



社風とは、企業を構成する人々の日々の行動に影響を与える空気のようなものである。

こんなことを思い出してみる。
かつてオーディオ全盛期に、トリオにはトリオの音があり、山水には山水の、テクニクスにはテクニクスの、ヤマハにはヤマハの音があった。測定器でデータを分析してもなぜヤマハトーンと呼ばれるような会社の音になるのかの説明はできない。そればかりか、どんなに新しい技術を取り入れてもやはりその会社の音調は厳然と存在する。このことから、企業の雰囲気のみならず、製品に共通した雰囲気や調子に影響を及ぼす無形の規律があると考えられる。

組織は、目的(理念)を持ち、それを実現する方策(戦略)を考え、実行する。良い風土を持っている企業は、組織がセルフコントロールするかのように自律的(自立的)に機能する。そのことが現場の創意工夫、適切な判断をもたらし、成熟した今日の経営環境下で差別化の源泉となり、利益を生み出すひながたとなる。つまり良い社風は、個人のやりがいと組織の利益が一致し、企業の存続可能性を高める。

それでは、社風はどのように形成されるのか、どのように働きかけて獲得するのか。

企業風土の形成には、さまざまな要素が関わっている。経営者がひとりで経営していれば思考と行動が一致するので生じないはずであるが(実際は方針のブレがある)、組織ではそうはいかない。

経営者の意図(会社が経営者のモノかどうかの議論は別として)を効果的に体現させるしくみが会社(組織)ともいえるので、その出発点となる経営者(経営理念)が明確なこと、その軸がぶれないことである(例えば、ほかに儲かる話があっても当社の進むべき道、するべきことに結びつかない戦略は排除する。具体的には、当社のコアスキルを高めることのない投資には目もくれない、顧客を欺いて商売をすることはしないなど)。

まずは経営理念、方針を内外に明確に打ち出し、そのことを浸透させる働きかけが必要である。朝礼で理念を唱和するだけではダメで、経営者、幹部が率先垂範して行動する背中を見せなければならない。重点的に打ち出した方針を自らが否定するような行動は取らないこと。それを高めていくために日々努力をしている姿を見せたい。そのためには理念や方針はシンプルでなければならない。目的のなかに矛盾があってはならない。

スタッフには、経営理念と日々の行動との結びつきについて考えさせる習慣を付けさせる。例えば、朝礼時に交替で「当社の経営理念が実行されている自社、他社の事例で感じたことを述るよ」などとする。このように絶えず理念を現実に近づける地道な努力の積み重ねが風土形成に重要な役割を果たすことは間違いない。

その意味で、どんな会社であっても「あいさつ」「笑顔」「清掃」(5Sと言い換えても良い)の三つは原点である。基本ができずに応用問題が溶けるはずかない。これらの要素と会社の収益性が密接につながっていることを優れた経営者や実践派のコンサルタントなら経験則として持っている。

こうした基本を忠実にやることの意義はなんだろう? ほんとうに収益に関係する作業は会社の仕事のなかで一部であって、会社の決めたルールを履行するための手続きなどに相当の時間を費やしているのではないだろうか。この世に良心と正しい判断を持った人たちだけなら法律は要らないのと同様、会社にとって、あいさつ、笑顔、清掃の徹底やマニュアルや決まりを設けることは、自主的な規律を持った人たちが主役になることを意味する。

逆説的に聞こえるかもしれないが、基本を徹底することは、ルールをなるべく少なくすることをめざしながら、属人的な資質の良さを引き出し、組織に融合させることではないか。そうして個人の知恵、熱意、創意工夫を楽しみながら会社の利益を一致させることにつなげることにつながる。存続可能性が高い会社の情報は決算書ではなく、目に見えない情報にあるのかもしれない。
  • 経営理念を明確に打ち出し、経営者が率先して浸透させる。
  • そのためには、良いことでもあれもこれもではなく、やるべきこと、戦略を絞りこんむ。
経営資源の選択と集中、理念と戦略と行動の一貫性、企業活動に存在する矛盾、トレードオフの関係などを整理して何が重要か、優先されるべきことか、捨てるべきことはなにか、過不足のあるスキルは何かを明らかにすることが必要となる。利益率の良い会社はそのための独自のモノサシを持っている。

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