総資本経常利益率から見えてくること
経営指標で重要なものを3つ挙げるとするなら、経営の効率と収益性を同時に見る総合的な指標として総資本経常利益率(経常利益/総資本)、資金を生み出す力の営業キャッシュフロー(経常利益+減価償却費)とそれで借入金が何年で返せるかの目安となる債務償還年数(有利子負債残高/営業キャッシュフロー)、生産性と成果配分の基準となる1人当たり限界利益(限界利益/従業員数)といったところだろうか?
経営指標は、同業他社と比べてどこがどうなのかの目安となる、と説明されているが、中小企業の場合、あまりあてにならないように思われる。というのも、同業といっても企業ごとに経営方針(例えば、人件費をかけて高付加価値のサービスを行う宿泊施設と、セルフサービスを主とするビジネスホテルでは同じ業種といえるだろうか?)、経営形態や施設が異なること、勘定科目の内容(解釈)が企業によってバラツキがあることなどである。
それよりも自社での時系列の比較を見ることが有効である。過去3年〜5年間の、貸借対照表、損益計算書、製造原価、販売管理費を並べれば、どこに問題があるか浮かび上がってくる。
今回は、総資本経常利益率から見えてくるものを考えてみよう。この比率は高いほうが良い。高めるには経常利益を挙げるか、総資本を下げるかである。それぞれの対策を図式化する。
このなかで注意が必要なのは、人件費と減価償却費という項目である。ともに削減すれば良いというものではない。人件費については、高い給与の役職の人たちが行っている仕事を、給与の高くない人たちが担えたら人件費が有効に活用できたことになる。部長の仕事をパートタイマーができるようになれば、人件費は下がったも同じ。方策はマニュアル化、教育訓練、権限委譲、コーチングなど。上司はより付加価値の高い、経営戦略の立案とその浸透に力を注げばよいわけだ。
減価償却費は任意に減らすべき性質の経費ではない。減らしたところで企業の手元に残るお金(キャッシュフロー)は変わらないし、金融機関の評価が上がることもない。ここでの意味は、設備、機会などを有効活用しよう、稼働率を高めようという趣旨である。例えば、減価償却費1千万円の機械があったとする。1年に1個しか製品をつくらなければ、製品原価に参入して1千万円を越えてしまうが、1千万個生産すれば、製品1個当たりの償却費は1円となる。
売上総利益率を高めるのに、仕入を下げるというのは、仕入先と交渉する、仕入先を変更するなどの取引先との交渉以外に、自社で付加価値をつけて競合他社より高く売るということができているかどうかである。商品やサービスが個性的(オンリーワン)なコンセプトをめざすのが本筋である。
短期借入金や当座貸越を減らせば金利は少なくなる。売掛の回収を改善することは基本だが、在庫の削減ができないかを考える。
長期借入金を減らすのは、経営に使っていない法人、あるいは経営者個人の遊休資産の売却がある。
こうして見ると、収益性を高める方策と、安全性(資本回転率)を高める手法はほとんど同じだとわかる。
共通点は、事業領域を得意な分野に絞り込み、経営資源を集中させると収益性も安全性も向上するということ。考えてみれば、バブル期とまったく逆の行動パターンである。売上高を上げるという命題のみからは、あれも始めた、これもやってみたいで事業領域が拡大するものの、それを経営していく裏付けとなるヒト、モノ、カネ、ノウハウは揃っていないままの状態となることが少なくない。
こうして資産(投資した土地、建物、施設、商品等)が膨らみ,量的な拡大は質的な拡散となり、予定通りの収益が上がらないと企業破たんのリスクとなる。
総資本対経常利益率という基本的な経営指標から、さまざまな改善点が見えてくる。中小企業では、この指標を高めるために、ここに挙げたようなさまざまな改善パターンに取り組むことなく、ひとつの課題に注力することである。たったひとつのことだけを徹底的にやることで実効性が出てくる。本気度、全社員をまきこんでの行動が見られるようになる。徹底性こそ大切なのだ。
経営者の視点では、「風が吹けば桶屋が儲かる」のように、結果に至る行動の連鎖を掴むことである。連鎖が見えてきたら、目標、するべきことのリスト、スケジュール、担当を落とし込むと、課題を解決する(=目標を達成する)ための行動計画ができあがる。
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