商店街を未来の地域共同体へ 大型店が近隣にできたので商店街での話し合いのこと。 集客のためにイベントを頻繁に行おうということになった。 商店街の次代を担う若い人がいないので、 「まもなく還暦を迎える青年部」(=幹部)の人たちが実働部隊であったりする。 長年、商店街活動を行ってきた功労者なのだけれど、 柔軟な発想が少なく、無難な意思決定になりがちとの自己分析。 イベントを行っても観客はおもしろくなく (やっている人がおもしろくないので観客も楽しめない)、 集客力が落ちてくる。 「商店街がイベントを行う時代は終わった」という人もいる。 商売そっちのけでイベントに借り出されたものの、 来街者は商店街にお金を落としていかないのだ。 大手デベロッパーがコンセプトを決めて、 ハード(店舗、駐車場、休憩場、コミュニティ施設等)、 ソフト(店舗構成、イベント・催事、サービス法など)を組み立てる ショッピングセンター(以下「SC」)に比べれば、 商店街は言葉は悪いが烏合の衆であり、 統一したコンセプトに基づく仕掛けができない (一国一城の主なので合意形成が困難)。 仮にリスクを背負って投資を行おうとしても収益の向上が未知数であり、 借入と返済の見込みが立たない。 そこで、変化を求めない貸し主(商店主)に別の選択肢を示して、 商業の表舞台から円満に去っていただくことを考えたまちがある。 それは、定期借地権の導入による土地の所有と使用の分離という概念である。 そのことで、土地の賃貸収入を得る地主もいれば、 再開発ビルの新店舗で商売を続けるオーナーもいる。 それまでの小さな区切りの個店ではできなかったことが 一体的開発で可能となる。 例えば、SCのような充実したコミュニティスペース (ミニ公園、休憩場所、テラス、カフェ、緑、待ち合わせ場所など)の設置、 各店舗に重複しているトイレや階段などの一元化、 セットバックなども視野に入ってくる。 再開発の初期投資は、 上階のマンション等の売却益を充当し、 さらに中心市街地活性化などの支援施策(補助金や融資)を 受けることが可能となる。 香川県高松市の丸亀町が全国でも先例である。 再開発までは行かなくても、 かつての商店街が持っていた魅力(価値)とは何かを議論し、 いまの時代に再定義、再創造することが必要だ。 なぜなら、商店街の存在は高齢化社会の光となりうるからである。 もはや買い物(商業機能)だけの商店街ではSCに太刀打ちできない。 だから、そこに住む人たちにとっての魅力づくりを住民とともに行い、 商店街のファンをつくりあげていく。 商店街と近隣の生活者が長期的な信頼関係(心の絆)を築けたらいい。 商店街の活性化にネックとなっているのが商店主らの意識である。 「お客様をあたたかくお迎えする気持ち」に欠ける店主が散見される。 接客をきちんとできるだけでもいい店だと思えるし、 顧客ごとに個別の接し方が臨機応変にできるのが個店の強みなのに。 商品について、商店主らの口癖として 「うちは量販店よりモノが良いが、客はそれを見る目がないから売れない」 などの発言が聞かれる。 しかし良さが伝わらない商品は「良くない商品」と同じである。 「伝える」ことに力を注いでみてはどうだろう。 一店逸品運動はそのきっかけとなり、 継続的な商売発展の原動力となってくれるはずだ。 清掃も不十分。 まずは、店格を印象づけるウィンドーから。 汚れた窓を迎え撃つのは、 エトレーのスクイジー(業務用の窓の清掃ワイパー一式)を使って みごとな手さばきで磨き上げる(リズムに乗って楽しく行うので時間はかからない)。 黙々と作業を続けるうち、 最初は怪訝そうな顔をしている店主や店員も途中からやってみたくなる。 窓ふきはおもしろいのだ。 商品の清掃には、花王のクイックルなどが効果的だ。 指差ししながら毎日商品を確認するうち、見えてくることがあるだろう。 粘着テープ跡にはアルコールで。 パソコンのキーボードやディスプレイもていねいに水拭きする。 清掃をすると気持ちが晴れやかになる。 数年の垢を取り除く頃には達成感さえ出てくるかもしれない。 次に商品の陳列を直す。 手描きPOPの作成、 ディスプレイの工夫、 照明の吟味なども行う。 ほんの数時間で店舗は明るくなる。 最後の仕上げは笑顔。 それもホンモノの笑顔で。 これを毎日やっていくだけで、売上は向上する。 そのことが実感できれば、次は仕掛けだ。 店内のいくつかの商品をピックアップして、 それを買っていただく人の顔を思い浮かべる。 その人たちの生活様式や趣味、見ているテレビや本、乗っているクルマ、 休日の過ごし方、交友関係などを想像する。 これを顧客のプロファイリングとして記述する。 マーケティングでもっとも楽しい時間のひとつだ。 そしてその人たちにどんな価値を提供するのかを考える。 あとは実行して評価し、 必要があれば修正を行う。 専門家の支援を得てマスコミにプレスリリースを行い、 無料で新聞やテレビに自店を取り上げてもらえるように仕掛ける。 その効果は大きい。 商品を売るコツのひとつに 「あの○○テレビで紹介された」という殺し文句がある。 マスコミへの仕掛け方にはコツがあるので、それは別の機会に。 こうして個店が少しずつ魅力的になっていくと 商店街を変えていこうという機運が高まる。 大所高所から商店街を見てみよう。 生活者の視点から見て構成業種に偏りはないだろうか、 世代交代(他人への貸し出しも視野に含めて)すべき店はないか、 「老朽化したアーケードを撤去して陽射しを入れよう」 (補助金が活用できる場合がある)などの意見が出るかもしれない。 いまの自分たちに足りないもの、 ここにあるもので発展させられること、 競合施設にない魅力、 生活者からみた価値ある何か…。 街区のあるべき姿(イメージ)を有志でわいわいがやがや考えてみよう。 動員されて不機嫌な面持ちで手伝っていたイベントは 「マーケティングの社会実験」として実感できるのでおもしろくなる。 イベントをやって打ち上げして終わり、ではなく、 このイベントは うちの商店街のコンセプトやイメージを高めるために行っていると実感できる (分析や戦略に基づくコンセプトづくりが必要)。 例えば、30代独身女性でレトロ感覚に反応する人たちに向けて 絞りこんだ提案を行ってみたところ、 ねらった通りの来街者が来た。 そう、客層をねらってイベントができるようになったのである。 つまり、街区のマーケティングが動き出したのだ。 世の中は不況で失業者も増えているが、 起業意欲のある若者は少なくない。 大手企業で定年退職を迎えた実力者が 社会の役に立ちたいと活躍できる場面を探していて、 まちの発展のためにプロデューサー役を買って出るかもしれない。 彼は、市民を巻き込む企画や空き店舗の活用など 「資金がない」を言い訳にせずスポンサーを見つけて事業を行う。 汗をかきながらも大所高所から将来のまちの目標を定め、 実行する「タウンマネージャー」としてまちを動かす。 彼のアシスタントは、大手百貨店を出産・育児でリタイアした女性で、 生活者の視点で個店にアドバイスしたり事務作業を行ったりする。 やがて商店街に若い人が起業の場として戻ってきた。 住民による活発なサークル活動が行われ、 生活に便利な商店街は高齢者にも人気。 2020年、価値を再創造した商店街を舞台に 新たな地域共同体が生まれつつある。 ▲戻る |
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