経営資源の選択と集中 そして「未来の利益」を考える
モノやサービスがあふれる現代はすべてにおいて成熟化した市場であり、差別化が基本戦略である。差別化して独自の土俵をつくる。そしてそれを顧客に支持してもらう。これがいまのマーケティングであり、そのために欠かせない考え方が経営資源の選択と集中である(ただし環境に対する配慮、持続的な社会に向けての協働などが求められるなかで、社会的に意義のある差別化を考えたい)。
企業を訪問すると、「良いことはほとんどやっている」という事業所が少なくない。40代から50代にかけての精力的な経営者や二世経営者に多いのだが、評判の経営書を読み、公的機関や業界団体が行うセミナーや研修に積極的に参加し、知識を吸収してすぐに実践している。例えば、従業員研修と顧客コミュニケーション、管理システム、それらを支援するITの導入など。
ただし経営書で「良い」とされていることを網羅的に実施したとしても、なかなか成果が上がらない。企業は存続発展することが目的だから、時間の経過とともに取り扱い商品や事業が時間とともに自ずと肥大化、多角化する傾向がある。そうなると「○○○といえば…」の独自性が失われる。さらにスタッフの時間や予算は限られている。販促や顧客接触が手薄になって満足度が低下し、手間は増大するばかりの利益が出ない構造になってしまう。財務的に見て、売上が倍になって利益が変わらないのならリスクが倍になっただけ。「経営資源の選択と集中」ができなかった企業のシナリオである。
それならば、得意な領域、勝てる土俵だけで勝負すれば良いのではないかと思われる。現実には大多数の企業では絞りこみが難しい。なぜなら「捨てる勇気」が必要だからである。強みは継続して伸ばしていかなければならない。それ一本で行くことは覚悟がいる。その途中で経営者や社員が根負けしたり、顧客が飽きたりするかもしれないし、いつまでも同じ土俵で勝負できるとは思えないという判断が働く。
視点を変えて「経営資源の分散と連携」を考えてみる。自社にないものは他社のを借りる。必要なときに必要な相手先とやりとりできる。自社と他社との互恵的な補完関係をつくる。このことで生産性の低い分野を外注でき、強い部分の生産性をより高められる。ひいては一人当たりの生産性、粗利益額を増やすことができる(一人当たり粗利益額は中小企業でもっとも重要な指標と考える)。つまり経営資源の分散と連携は、経営資源の選択と集中の裏返しであり、それを実行するためには、従業員、取引先、顧客と相互に納得できる関係づくり=コミュニケーションが前提となる。
経営者は数年後の自社の強み(=未来の利益の源泉)をいつも考えている。そのためには、強みの本質、独自性をかたちづくっている要素、スキル、ノウハウを洗い出し、それらを組み合わせたり部分的に背伸びをしたりして3〜5年後の利益につながる土俵は何かを考える。
ときには多忙な業務の合間を縫って、丸一日か二日を充てて全員参加で「未来の利益を考える」ブレーンストーミングを行ってみるのが良いと思う。大勢が集中してひとつのことを考え、その足し算、掛け算のなかに、新しい方向性が見えてくることがある。現場には目に見えない技術やノウハウの「自治」がある。経験知に裏打ちされた潜在的なそれらの知恵をいかに引き出していくか。同じ戦略でもコンサルタントや経営陣から押し込まれたものと、全員参加でひねり出した戦略が同じものであっても、実効性(成果)は違ったものになる(どちらがいいかおかわりですね)。
こうした場では、一人ひとりの参画を促し自主性を尊重しながら、肯定的な雰囲気のコミュニケーションを導く。やがて方向性が見えてくる。参加者全員でつくりだしたという満足感に浸るひととき―。そんな場をコーディネートできる能力こそ、中小企業診断士として求められている。
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