「災害時の情報把握に役立つラジオ」
災害時の有力な情報源は電池で動くラジオである。そこから得られる情報は「生きぬく」ための判断材料を提供してくれる。また、電波を通じて人々の気持ちに触れるとき、生きる希望につながることがあるかもしれない。
電池で動くラジオは持ち運びができ、行動しながら聞くことができる。テレビと違って画面を見る必要がないため、明るい戸外や暗闇でも聞ける。目を閉じて落ち着いて聞くことで正しい判断がしやすくなるかもしれない。
ラジオには、中波(AM)とFMがあるが、災害時にはどちらも欠かせない。中波は遠くまで電波が届く反面、夜間は韓国や中国などの強力な放送局が地元の放送局の電波と混信して聞きづらくなる現象が起こる。一方で山間部では電波が入りづらいこともある。これらは「選択度」「安定度」「感度」の良いラジオで改善できる可能性がある。さらに受信性能だけではなく、増幅部の特性やスピーカーの質が悪ければ音が聞き取りにくく聴き疲れする。結局、あまり安価なラジオは役に立たない。
災害時には、地区の情報(安否情報や避難情報など)がFM放送や臨時のコミュニティFM局で放映されることがある。阪神大震災の際にコミュニティFM局が活躍したことは記憶に新しい。コミュニティFM局は小出力ながら規制緩和により開設が容易で、そのエリアはおおむね10km少々である。聴取者も通常のFM放送帯で受信できる。
FM放送の周波数に隣接するFMワイドバンドが受信できればテレビの音声(1〜3chと4〜12ch)が受信できる。FMラジオで受信するテレビの音質は良好で、音声だけでも十分理解できるし、ノイズが少なく長時間聞いても疲れないなどの利点がある。テレビ音声の利点は、ラジオでは放送されない特集番組や専門家の解説が聞けることである。
ここで問題提起をしておきたい。テレビのアナログ放送が7月で停波することに伴ってラジオでテレビの音声を受信することもできなくなる。せめてテレビの音声だけでも活かせないものか。巷にはアナログテレビがいまだに溢れているが、被災地の事情を考えれば、東北周辺は停波させずに存続させ、全国で不要になるアナログテレビを活用して被災地で使えないものか。アナログ放送の停波を延期することは意義があると考える。
災害時には、持ち運びの良いラジオが望ましい。その一方で音質や聞きやすさはある程度の大きさのラジオが望ましい。また、単一、単二などの電池が使える機種は使用時間が長いのだが、その分重くなる。結局、一台ですべてのニーズを充足するラジオは残念ながらないのだが、用途ごとにおすすめの機種を挙げておきたい。
パターン1:非常時に備えて普段から持ち歩く小型軽量
名刺サイズのラジオが最適である。ポケットで携帯する場合はチューニングダイヤルがずれやすいので、PLLシンセサイザー方式の受信機がプリセットやスキャンもできて良いだろう。推薦機種は、約1万円弱と高価ながらソニーの技術の粋を集めたICF−R351(または充電スタンドの付いたICF−R353)。ソニーは前身の東京通信工業が世界で初めて実用的なトランジスタラジオを市販化したとされ、その伝統を引き継ぐ本機は小型ながら高感度である。イヤホンが巻き取り式なのでかさばらず、70グラム程度と軽量なのでカバンに入れても邪魔にならない。単4電池1本で長時間使える節電設計も良し。小型スピーカーを内蔵しているが、電池寿命の点からイヤホンで使用することが標準だ。このラジオは、ソニーの高性能ラジオの製造を受託している青森県の十和田オーディオ(株)の海外工場でつくられている(今回は幸いにも被害はなかった模様)。
パターン2:防災使用のラジオ
内部に充電池を内蔵し、電池の他に手回し発電機のハンドルを内蔵しバッテリー切れでも安心できる。LEDのライトを装備し、携帯電話の主要三社の端末機を充電することも可能である。いわゆる災害対応ラジオであるが、この手のラジオはノベルティーなどで配られることが多く、うちにも3個ある。しかしソニーの防災ラジオはそれらとは受信感度や音の聞き取りやすさなどが比べものにならない。災害時の実用性、信頼性から判断すれば明らかだろう。現行機種はICF−B02で五千円程度である(中国製)。
パターン3:安価ながら誰でも操作できて音質、感度の良いラジオ
パナソニックRF−U170Aは、3千円程度と安価ながら、高感度で音質が良く電池寿命が極めて長いと三拍子揃った名機である。上記2機種と違って、少し広めの空間でスピーカーを鳴らしても歪み感の少ない音質で聞ける。しかもアナログチューニングのため、説明書を読まずに操作できる。さらに、テレビの音声が1ch〜12chまで入る(姉妹機のRF−U150Aはテレビが1〜3ch受信可でこちらがやや安い。なお末尾にAが付かない機種も性能は同等である)。蛇足ながら、私が購入したのは十年近く前だが、購入後に電池は一度も交換しておらず(長寿命!)今回の震災でも毎日活躍している(中国製)。
パターン4:小さいが、海外の放送までカバーできる小型高性能機(BCLラジオ)
海外の放送局を受信する一般的な方法は短波放送が受信できることである。短波帯は遠くまで届く性質があり、上空の電離層の状況によっては地球の裏側の放送局も受信できる。英語がわかる人は、今回の震災で海外メディアがどのように取り上げているかがわかるだろう。日本で受信しやすいのは、VOA(アメリカの声=アメリカの国営放送)、BBC(英国放送協会)、中国国際放送(北京放送)などの英語番組である。もちろん外国の放送局には日本語放送もある。ラジオ韓国、ロシアの声、台湾国際放送、イランイスラム共和国国際放送、ベトナムの声、アルゼンチン海外向け放送、HCJBアンデスの声、インドネシアの声、このほか、モンゴルやパラオなども日本向けの日本語放送を行っている。これらを受信できる可能性のあるラジオで災害時に使えそうなのは、ICF−SW23である。災害向けとも使えると判断したのは、小型軽量であること、入手しやすい単三乾電池であること、アナログチューニングで比較的稼働時間が長いことなどである。どちらかといえば、イヤホンで使用するほうが聞きやすいかもしれない。日常的に使用するのなら、高価だがICF-SW7600GRが良いだろう。この2機種は日本製(十和田オーディオ製)。
日本でラジオの新製品を開発している企業はなくなってしまった。たまに新製品が発売されたとしても、デザインや型番変更等のみで新たな技術が投入されることはない。ラジオがプロダクトライフサイクルにおける成熟期〜衰退期の製品であり、企業としては経営資源を配分できないと判断するためである。そのためかインターネット上では、製造中止となった往年のラジオがオークションで活発に取引されており、ラジオにノスタルジーを感じる人たちが少なからずいることがわかる。
ただし震災後はラジオ全般が入手困難となっている。通常なら5千円前後の災害対応ラジオのICF−B02がアマゾンで6万円の価格が付いていた(アマゾン本体ではなく出品業者だが、これはひどい。困っている人はこれでも買わざるを得ないのだろうが…)。ラジオは人の暮らしに寄り添う大切な道具である。
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