ロールプレイングの実践(2000年11月)
[質問]
 サービス業を営んでいます。今後はお客様と何気ないやりとりが重要になってくると考え、朝礼で「職場の教養」を輪読したり、コンサルタントと契約して接客セミナーなどを受けたりしていますが、効果が上がりません。価格競争には陥りたくないので、お客様満足度をもっと高めたいのですが、自分たちでできることはありますか?


[答え]
 座学よりも効果が上がる実践的な方法があります。それがロールプレイングです(以下RP)。
 なぜRPが有効なのでしょうか。それは、抽象的な言葉のやりとりよりも、ドラマとして具体的に演じた方が人の記憶に残るからです。この心理劇では、お客様役と接客役の二人のほか、それを観察する第三者を加えます。第三者がどう見ているか?言い換えれば第三者に投影された自分の姿を知ることが大切です。なぜならドラマを演じる自分自身すら自らの心の動きを知ることはできないからです。演技→解釈→演技→解釈の流れのなかで、日常生活のなかで埋もれていた自発性、創造性が蘇り、あるべき役割関係が浮かび上がります。できれば精通したコンサルタントに同席してもらい、第三者によって観察された事柄をチェックしてもらいましょう。

 RPには筋書きがありません。予め決められた役割を演じるのなら、単なる演劇の練習です。しかし実際は、お客様がどんな感情表現をされるかまったくわかりません。その現場の緊張感が現場たるゆえんなので、筋書き(結論)よりも役割創造(過程)を重視することの意味があるのです。

 接客の上手な人は、人間観察が巧みです。お客様のちょっとした仕草、視線の置き方、位置関係、声のトーンなどからお客様の現在の心理状態、落としどころを感じ、クロージングに持って行く方法を完成させています。新人かベテランのセールストークを真似ただけではうまくいかないのはそのためです。

 しかしベテランでも、RPによって新しい発見があります。確かに過去に獲得した経験知を活用する能力は優れていますが、第三者の目やほかの人の対応から、新しい役割を発見する絶好のチャンスです。特にフレンドリー接客は、年齢によって違いますし、スタッフとお客様の年齢による相対的なスタンスの違いもありますね。

 役割で熟練が必要なのは、お客様役です。自らの欲望そのままに演じるのではなく、相手を見ながら相手が新しい役割を創造できるよう、ドラマの展開に応じて臨機応変に役割を提供していくことが求められます。繰り返しますが、RPのねらいは、新たな自分の役割を第三者の目を通して創造することにあります。

 売場(買場)にPOSを活用した単品管理は常識となってきました。なるほど、POSは正確に売れ筋を掴めます。しかし死に筋はわからないし、売れない理由も教えてくれません。同じ「売れない」であっても、お客様が手に取る回数が多い商品と、そうでない商品とでは原因が違います。

 前者は、関心があるのに購買の意思決定に至らないもの。価格や訴求の仕方に問題ありです。後者は、お客様の好みをはずした死に筋在庫です。いずれにせよ、現場のスタッフに求められるのは、生身の人間が主体的に感じたことを伝えあうことです。

 情報技術の進展により、社内外での電子メールのやりとりが常識となりました。しかしメールの文言は意外に誤解されやすいものです。その意味で、お客様と我が社という役割でメールの送受信のRPを行ってみましょう。ビジネスエチケットが確立されていない分野だけに、業種によってはその対応が会社の業績を左右する要因になりえます。