年収1千万円の林業経営をつくる
四国は、林業の盛んなところである。特に南四国から紀伊半島南部は全国有数の多雨地域であり、そこから無数の川が縦横無尽に流れ出している。
近年になって海の漁師が山で植林を始めている。手入れの行き届いた森や自然の状態に近い山々から流れ出すミネラルなどの成分が漁獲高や磯資源の出来不出来を左右することを知ったからである。
都市(下流)住む人たちにとっては、森を守ることで洪水と渇水のリスクを同時に低減できる。これまでの主な対策であったコンクリートのダムは数十年で土砂が堆積して使用不能となり、再生する手段がない巨大な産業廃棄物と化す。
これに対し、山の機能を高めて対応することは本質的な解決法である。昔の人は、大雨をゆっくりと貯えながら下流に流すことを知恵として持っていた。つまり水資源を時間と空間の広がりのなかに分散させることで災害を防ぎながら水の恵みをいただこうとした。
森林管理の財源として高知県が水源税を創設しようとしたとき、反対の声は、県民、議会からほとんど出なかった。徳島では森の持つ公益的な機能(「緑のダム」)の研究をNPO法人吉野川みんなの会が行っている。そのための寄付金および調査ボランティアを募っているので、関心のある人は、同会のWebを参照いただきたい。
話を林業に戻す。昭和30年代の拡大造林政策により、広葉樹は伐採され、杉の植林になった。やがて安価な輸入木材が国内市場を占拠したとき、森は荒廃して「緑の砂漠」となった。
徳島県では、森林ボランティアや緊急雇用によって森の手入れをする政策を打ち出した。しかしこれらは抜本的な対策とはならない。持続的に林業に関わる人材を育成するとともに、林業経営が経済の循環に入って来ることが必要である。
すでに県内外で林業経営の成功事例がいくつかある。共通点は、自然の営みに逆らわない管理(適切な枝打ちと強間伐など)を行うことで混交林の状態をつくり優良材を確保する。問題は運び出す手間だ。従来は林道整備を進めて解決しようとしたが、本質的な解決とはならず、つくることが目的化し、維持管理費が自治体の負担となっているのが現状だ。
林業経営では、管理にかかる時間とコストを低減することに尽きる。幸い地産地消を好ましいと考える人が増え、木造住宅を建てる施主に徳島県が県産材を補助する政策を打ち出したところ、応募多数で抽選になった。多少高くても木の家に住みたい人たちの需要は確実にあるのだ。
国産材は外材よりも高いといわれている。また家は30年で建て替えるという人たちがいる。ほんとうにそうだろうか。その土地の木を使って三世代百年の家を建てることは、実は経済的に理にかなうことかもしれない。なんとかそれを実現できないだろうか。
よく管理された山から最小の手間で伐りだした材を、流通経路を短縮(林業家と建築会社が提携するなど)して生活者に完成品(家)を提供すれば、価格の問題(林家にとっての価格の安定、生活者にとっては安価に入手)は解決する。
個々の林業経営の収益性のカギを握るのは、前述の作業道の設置だ。例えば、樹木の間隔を4メートルに間引きながら(これは杉の品質にいい影響を与える)、ユンボで2メートルの作業道を注意深く敷設すれば森の生態系にほとんど影響を与えない。この作業道を縦横無尽に走らせれば、いつでもどこでも伐り出すことができるため、時給1万円ぐらいの林業経営も可能だ。
県産材が売れれば徳島の森が健全化し、水害防止、渇水防止、二酸化炭素固定などの公益的機能を果たしながら社会資本の整備コストも削減される。目標は、個人の林業経営で年収1千万円以上。これが実現できれば、都市部からのIターン者が多数現れる。そんなビジネスモデルとそれを支援する施策を研究し、公表したいと考えている。
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