「この指止まれ」の理念指向型経営
まずは、この国で起こっている現象を書きとめてみよう。企業の業績は好調とマスコミや統計は伝える。
- 4社に1社 過去最高利益(2004年3月決算。東証一部上場企業)。利益は前年度77%増。
- 国内総生産 実質5.6%成長(2004年1〜3月)。
- 収益力 バブル後最高(日経新聞2004年9月見だし)
ところが家計はどうだろう?
- 家計の金融収支 1兆2千億円の赤字。
- 世帯当たり平均所得 600万円割る
- 年収300〜400万円未満がもっとも多い
このように、会社は儲かっても給料は下がり続ける。労働力市場は、安い海外生産、賃金と比べられ、ITに付いていけない40〜50代を中心にリストラが襲う。
一人当たりの人件費を企業規模で比べてみよう。
- 大企業(資本金10億円以上) 740万円
- 中小企業(資本金1千万円〜1億円) 380万円
- 零細企業(資本金1千万円以下) 280万円
格差は大きくしかも拡大基調にある。就業人口のうち、中小・零細企業の従業員は72%を占める。このご時世では規模を問わず賃金は下がっているのだが、人件費の低下率をみると、大企業1%、中小企業9%、零細企業15%と零細ほど減少率が大きい。もともと給与が高くないだけにやりきれない。
低価格、短納期、高品質を成り立たせるために、海外に生産拠点を移したり、コストダウンは必然。そのため下請中小企業にしわ寄せが来る。取引中止か否かの選択肢を突きつけられても、明日の従業員の生活がかかっているため応じるしかない。利益低下が著しい。給与引き下げも行った。ときには長年功労のあった従業員を泣いて切ることもある。言い換えれば、中小零細企業の犠牲と献身の上に日本の成長(というよりは大企業の利潤確保)は成り立っている。さらに資材値上がり分を力関係のため転嫁できない中小企業に石油製品の高騰が追い打ちをかける。
勝ち組とは、自らのビジネスモデルで相撲が取れる企業であり、その他の企業はそのビジネスモデルに受け身で参加することで食いつないでいる。企業規模を問わず、独自の土俵をつくって主導権を取れるビジネスにしなければならない。企業再生に関わって思うのは、経営破たんの原因は、放漫経営か過去の成功パターンにしがみついたかのどちらかと思うのだ。似たような製品があり余っている成熟市場で、10年前と同じ仕事で飯が食えるわけがない。
企業再生に関わって思うのは、経営破たんの原因は、放漫経営か過去の成功パターンにしがみついたかのどちらかと思うのだ。似たような製品があり余っている成熟市場で、10年前と同じ仕事で飯が食えるわけがない。
多くの企業で不足しているのは、独自の企画・提案力。そして自らの土俵に来てもらうための情報発信。それを約束として発信し、顧客の声に耳を傾けることで顧客価値を増大させること。あいさつや笑顔、清掃、予算実績管理などの基本は社風にまで高められていることは当然だ。
暮らしに目を転じれば、出生率は最低水準に低下し、少子化による人口減少社会がまもなく到来する。労働力の流動化でフリーターは400万人を突破。年収600万円未満が8割を占め、中流階級が減少するも高額所得者は減少せず、所得の二極化が進む。日本国民は「明日をも知れぬ貧困層」「なんとか生きている層」「笑いが止まらない層」の3階層に分かれる。
全体では5世帯に1世帯は貯蓄なしのありさまで、経済的な理由で年間3万人が自殺している。子育てに時間とお金がかかるため、20〜40代までの消費性向が大きく低下。子どものいる家庭の63%は「生活が苦しい」(厚労省国民生活基礎調査)と答える。個人破産者も増えている。
さらに追い打ちをかけるのが、国家財政の破たんだ。将来得られる年金について希望を持つ人はいない。消費税引き上げは避けられず、老朽化する橋やダムなどの社会インフラを数十年後に整備する資金が国家に残っているとは考えられない。景気回復や構造改革の名のもとに、ここ数年にわたって日本の政治で何が行われたかをじっくりと検証すべきだろう。
その一方で企業社会(お金が価値観の中心で生活の糧を得るために我慢して仕事をする)は、人々の価値観のすべてを満たすことはない。自分が共感する価値観に基づいて、社会的に必要とされる商品やサービスを自らの手でつくって分け合う地域共同体の存在が浮かび上がってくる。
四国に多い中小零細企業がいきいきと輝くために何が必要かを考えてみた。
(1)理念・使命志向型
- 経営理念を掲げ、約束を守り、共感してもらう。
- 例えば、安全な品質を届けるために、どんな努力でもするというメッセージ。
- もし大手自動車会社や老舗乳製品企業、鉄道事業者などに、そのような使命感があって、それが会社のすみずみまで空気のように浸透していたら事態は変わっていたかもしれない。
(2)地域共同体との結びつきを強める
- 理念指向型と似ているが、地元の農林水産業や伝統産業を支援するというもの。例えば、高くても地元産の材料しか使わないなど、地元の産業を支えるという理念を頑固なまでに守り、その姿勢をアピールする。ときには顧客を生産現場に連れていき、生産者と交流する。使命を打ち出してそこに共感してもらうかたち。価格競争から軽やかに飛翔する。
- コミュニケーションの道具としてITを活用する。例えば、商店街がCATVを活用して地域に必要な情報を集約して地域をつなぐコーディネータになってみる。地域の生活者の困ったことを自分たちで解決するしくみを生みだし、そこに力を貸すことで商店街、ひいては小さなお店が地域の人々にとって、なくてはならない存在になれる。商店街をいまの時代に再定義するのに、道具としてのITと汗を流す人は不可欠と思うのだ。
(3)異業種、同業種、関連業種との連携
- ・自分にないものを持ったパートナーとの連携、補完による独自の土俵をつくる。ある企業の優れた技術(技術そのものはコアスキルであって、それ自身は強みでもなければ商品でもない)と別の業種の異なる技術、ノウハウ、ネットワークを組み合わせ、顧客にとって新しい魅力(価値)を創出する。企業の枠を越えて経営資源の貸し借りを行い、(足し算ではなく)利益の掛け算のしくみをつくる。その成果を分かち合うというもの。
- これは経営資源の選択と集中の結果、必然的に出てくるものだが、ひとつの企業の枠を越えて強みの貸し借りを行い、(足し算ではなく)利益の掛け算のしくみをつくる。その成果を分かち合うというもの。
従来のビジネスの枠組みで生きていくか、それとも別の枠組みで生きていくか。企業の存在価値をメッセージとして社会に打ち出し、それに顧客が共感する理念志向型の経営が楽しみだ。それが真の意味での「経営革新」「第二創業」と信じ、徳島県内の中小企業が新しい価値観に立ち向かう姿を見たい。中小企業診断士として使命感を持って支援できる喜びを感じながら。
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