「観光という言葉の代わりに、旅の場面における、ほんとうにして欲しかった旅をサポートする提案」


 四国観光は、高松〜高知〜松山を廻るのが一般的といわれ、徳島は四国観光からはずされる傾向があるようだ。
 JRで四国内を周遊する際に徳島を起点とした場合、乗換が生じる(高徳線で直接結ばれる高松は例外として)。高知へは阿波池田で特急剣山から特急南風へと乗り換えるが、これがほとんど接続していない。数少ない連絡便は、ビジネスマンが出張に使うと想定される朝の一便ぐらいではないのだろうか?

 松山へは、高松で乗り換え今治を経由するため、時間、費用ともかかる。そのため、徳島から高知、松山へは鉄道ではなく高速バスを利用する人も少なくない。徳島の観光を見つめるとき、逆説的だが、徳島から四国の他地域へのつながりをよくする必要があるのではないだろうか。

 瀬戸大橋線の流れが四国の基軸となるのは仕方ないとして、四国四県の観光資源で比べると、坊ちゃんの松山、栗林公園の高松、坂本龍馬の高知と比べると、徳島の観光資源はやや知名度が低い。だから「もっとPRを」という人もいるけれど、情報洪水のなかで果たして有効なのだろうか。アピールをすればするほど、白けた観光地を宣言しているような気さえする。

 列車の旅はいい。広い車窓からコトッコトッという音を聴きながら弁当を食べる。なんだか包まれるような安心感、人生を振り返りながら旅の郷愁を味わう切ない時間である。多忙な現代人は仕事のストレスを抱えている。列車の旅は、オンからオフへとスイッチを切り、「観光客」になりきるペルソナを身に付ける手段ともいえる。旅の過程において、乗客が仕事から遊びへの切り替えをすぱっと進められるような心理的な工夫や演出があるのでは?

 なかなか予約が取れない宿のなかには、電話は置かず、調度品に家電製品がない(あるいは見えないようにしている)宿がある。携帯電話の電波も届かないし、テレビも部屋にないとする。
 電子音の代わりに、遠い山でざわめく風の音、ヤ行のやさしい音を立てるせせらぎ、いままで気付かなかった鳥や虫の声、土の道をしゃりしゃりと歩く足音が静寂のうちに聞こえてくるだろう。日常から離れて自分を見つめることができる。癒しとは、自分を見つめることだとぼくは思う。

 上勝町は、マイクロソフト社とICTを活用した地域振興の覚書を締結した。「いろどり」で高齢者の産業をつくりだしたまち、そして環境問題に真剣に取り組んでいる。小さなまちの大きな志を伝える手段はマスコミとインターネット。いちはやく光ファイバーを敷設したのも慧眼である。いつもながら上勝のみなさんの熱意と実行力に胸が熱くなる。そのうちインターネットの無線LANによる無料接続ポイントが設けられるのではないかと期待している。視察や交流目的での訪問が多いだけに、少なくとも観光交流拠点の月ケ谷温泉には必要ではないだろうか?(すでにあるようなら蛇足であるが)。

 徳島から四国の他地域へと出にくいのなら、徳島だけで完結してもらえればいい。ならば「体験観光」を強化しようということになる。
 体験観光のメニューは、所変われど品変わらずで、多少の地元色はあるもののどこも代わり映えがない。ホンモノに近づけたお膳立てをなぞることで、その土地の暮らしの1/365を心身に刻み込む。いきなり職業漁師のように漁はできないし、農機具だってうまく扱えないのは仕方ないが、それも思い出。体験メニューは平凡であっても、お迎えする人たちの笑顔や真心、それに感謝する訪問者の心と心が深く交わったとき、「お互い」の心がざわめく。
 外からやってきた人の視点、人との接触を通じて、地元の人たちも自分を見つめ直すことができる。そして自分の住んでいる土地に誇りが持てる、それがまちおこしの第一歩。金儲けにつながらなくてもいい、とにかくやってみる。心のつながりができれば、モノは引き寄せられていく。体験観光が陳腐化する頃にはそんな流れができたらいい、という長期の戦略(段階設計)が必要だ。

 結論からいえば、いまの観光戦略に欠けているのは、絞りこんだ旅のニーズの実現ではないかと思う。例えば、歩きや自転車のお遍路さんがしてほしいと思うことを実現できる場を想定する。
 まずは,お遍路さんが何をして欲しいと思っているかを調査する。調査は、体験お遍路モニター募集として実際に調査員として歩いてもらい、自らの実感やほかの歩き遍路さんの話を聞くなどして感じたことを伝えてもらう。お遍路さんの定点観測もいいだろう。
 調査の結果、短時間で洗濯がしたいというニーズがあったとする。平均の待ち時間はどのくらいか、その間にどんなことができればいいか、などきめ細かくお遍路さんの実態を観察してサービスを提供する。荷物を安全に預かる、自転車でまちをまわる、お遍路さん同士、あるいは地元の人のお接待をつなぐサロン、体調管理をセルフでチェック、旅の途中で消耗品をリペア(靴や数珠の修理など思いがけないニーズがあるかもしれない)、好きな音楽をリクエストして聴ける(これはインターネット)、家族とテレビ電話で無事を確認できるなどのニーズに応えるしくみ。お大師さんの像からお湯が出るお遍路さん専用の結願の湯などアイデアは尽きない。
 なお、お遍路さんのランドリー代は無料とする。代金は、一口いくらで寄付を募り、八十八箇所を廻りたいけど多忙で行けない人たちに出資してもらう「心のおせんたく・同行二人プラン」とする。お遍路さんが身に付ける衣服を洗濯するお接待ができるわけだが、出資額が増えるとポイントがたまり、現地に招待されて表彰されたり、お遍路さんが感謝の読経をした数珠や杖などの遍路グッズが送られるなどすると楽しい(今度はあなたがお遍路に出なさいというメッセージ)。こうした動きをネット上のコミュニティ(ケータイサイトは必須)で伝える。お遍路さんも出資者もまちのファンになる。
 観光という言葉の代わりに、旅の場面における、ほんとうにして欲しかった旅をサポートする絞りこんだ提案はどうだろう。旅のニーズ一点突破のソフト(しくみ)は、マスコミや口コミの材料となる。情報発信をするのではなく、されるものをめざそう。

 

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