選ばれるために〜パーミション・マーケティングその2(2000年6月)

 有権者に人を選んでもらう選挙戦をマーケティング活動と見なして、パーミション・マーケティングの基本的なプロセスを考えてみよう。(1)有権者に名前を知ってもらう。(2)知ってもらった有権者に好意を持ってもらう。(3)生涯の支持者となるよう関係を深めていく(場合によっては選挙を手伝ってもらう)。

 メッセージが受け取られるためには、期待している候補者からのメッセージを心待ちにしている有権者一人ひとりに、親密で個人的なメッセージを届ける必要がある。もちろんメッセージそのものが期待されているものでなければならない。

 そのプロセスは、(1)自発的に手を挙げてもらう。(2)候補者の政策、人となりを理解してもらう。(3)有権者の支持が続くような働きかけを継続して行うことで、候補者への思い入れを深めてもらう。(4)当選後は支持者との話し合いのなかから政策を実行する。(5)実践の結果をすべて報告して成果、失敗を支持者と共有する。こうして、候補者と支持者がかけがえのない友人となる。選挙におけるパーミション・マーケティングを極めればそうなるし、そのために欠かせないツールは何かということも自ずとわかってくる。

 問題は、最初の認知をどうするか。どうしても選挙カーやチラシなどのマス・マーケティングに頼る側面が出てくる。それ以上に難しいなのは、多様なニーズを持つ生活者の意見をどう集約していくかであろう。

 前回指摘したように、選挙で蚊帳の外に置かれていた無党派層のニーズを把握し、そのために候補者はどのようなスキル(専門的な得意技)を持つべきか、どうアピールするかが大切になってくる。例えば、環境、福祉、経済、教育などといった分野毎の政策を提示する機能型のアピールがいいのか(総花的で他の候補とどこが違うの?になりかねない)、それとも「情報公開を進めながら皆さんと相談しながらやっていく」などといった行動理念(スローガン型)がいいのか。

 もしスローガン型であれば、他の候補に圧倒的な差を付けるスキルを身につけなければならない。まさにその候補者の核心となる能力(コア・コンピタンス)であり、それが明確でなければ、パーミション・マーケティングによる情報発信は無意味である。

 オープンネットワークとそこから得られるメリットがITがもたらすとすれば、今の政治、行政に求められる「情報公開」と「住民参加」の機会を提供することで、誰もがその利点を享受することができる。そこでは生活者に支持される住民サービスは残るが、住民の支持が得られない政策や施策は淘汰される。

 もし選挙をWeb上で行うようになれば、(非公式)情報が光の速さで駆けめぐるため、これまでのように特定の利害関係者とのかかわりだけでは当選はむずかしくなる。生活者の意思表示がダイレクトに政治・行政に反映されることによって、生活者も自ずと勉強するようになり、そのことによって民主主義がさらに成熟したものとなっていく可能性が高い。

 生活者のニーズと他の候補より圧倒的優位に立てるセールスポイント(コアコンピタンス)を付き合わせる一方で、効率(広く認知される)と効果(狭くても深いコミュニケーション)をどうバランスさせるかが課題である。もし候補者と生活者の絆が深まれば、生涯の支持者となってくれるだろうし、そうなれば、候補者が啓発していくことで地域生活者の満足度も高められる。ITは、政治や経営の本質を鮮やかに浮かび上がらせる。

 企業経営に置き換えると、競争優位(コア・コンピタンス)を持ち続けながら、WebなどのIT技術(ネットワーク&データベース&セキュリティ)と経営システム(経営循環のしくみ)とマーケティングを有機的に統合した企業が生活者に支持されることになる。