「新しい農業経営モデルについて」(2000.1月)
最近、農業関係についての経営支援を依頼されることが多くなりました。これまで農業経営者と接してきた感想では、農業経営についてのポイントは3つあると思います。
ひとつは、収益性の分析として、一般的な経営比率(もちろん農業用に科目を変えてはいますが…)を見ていくもので、その代表的なものは、農業資本対付加価値率です。
これは、経営資本対営業利益率に該当するもので、資本の回転率と粗利益率の両面から事業を評価しようというものです。ここでは、生産高から育苗費、農薬・肥料費、人件費、減価償却費などの農業経費を差し引いたものを付加価値としていますが、作物によってかなり違いがあり、1人当たりの粗利益額が500万円を超える農業経営も見かけます。
さらに生産高に占める農業経費の各項目をその割合と時系列で見ていくと、同じ作物を近隣地域でつくっている場合に参考になります。農業改良普及センターで作成している経営指標との比較もできます。
二つめに、設備投資の是非を判断することがとても重要です。農業はことのほか設備投資がかさみ、トラクターや園芸施設の返済のために事業をやっている農業経営者も少なくありません。しかし実状は設備が必要か否かではなく「隣が購入したからうちはもっと良いモノを」だったり、業者の言い値で買っている農家が少なくないと思われます。
設備投資のポイントは以下のようにまとめられます。
(1)投資をすれば売れるのかの目処が立つ。またどうすれば売れるのかを考える。
(2)投資の回収期間は長すぎないか、返済に無理はないか?(以下に計算事例)
新作トラクタ1000万円、耐用年数(税法ではなく実用年数)10年、下取価格なし、年間
減価償却額100万円(定額法)、年間原価(人件費)節約額80万円と想定すると、1000万円÷(80万円+100万円)≒5.6年・・・この適否について商品性、安全性などから判断。
(3)返済は年間利益+減価償却費の範囲内で可能か?
(4)長期で借りたお金を運転資金や生活費に使わない。
(5)目的に応じて中古やリースにする手もある。見栄で機械を買わない。
3つめは、販売です。自分のつくっている作物をどこの誰が求めているか、またその人たちに作り手の情報をいかに伝えるか、生活者と顔の見えるコミュニケーションを構築できるかといったマーケティング戦略です。
山の木の葉で料理のつまものを出荷している上勝町の「彩」事業は年商2億円?だそうです。そのために品質管理に力を入れるとともに、各農家にパソコンを配給して情報ネットワークを構築し、情報発信を試みています。
国益や国土保全という公益的機能を持つ農業には、農業施策の側面支援が必要です。しかしそれも自助努力のある農家に支援の手を差し伸べるという方向性になってきています。
農業には製造業と商業のどちらの要素もあり、経営やマーケティングのしくみが取り入れられたとき、その農家は農家のなかではもちろん、他産業と比べて優位性を持ち得ます。
発想を転換して、高付加価値の作物を手作りで生産することで設備投資を抑え、WEBで生活者に直接発信していくことで高収益を得る新しいスタイルの農業経営のモデルを提唱したいと思います。それができれば、棚田保全、里山体感など癒しやストレス解消の役割を求める都市住民との接点も広がりそうです。小規模農家が生き残る道は「こだわりの産直とその情報発信」。えっ、これって商店街にも言えてませんか?
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