「南阿波アウトドア道場〜「またあしたから生きている―」。そんな勇気をもらえる場所」


(1)乗り遅れた観光振興を逆手に取る四国東南部、海部地域、那賀川流域の可能性

 四国東南部は全国的に見て希有の特性を持っています。それは、海、山、川のつながりを実感できる場所という意味です。

 観光という観点からは、徳島県南部は四国のなかでも出遅れました。鉄道を基準に観光客の動線を見ると、瀬戸大橋線から松山、または高知への流れが基幹路線となっており、徳島へはJR阿波池田駅で乗換が必要です。徳島市から松山、高知への直通がないことは、(高松〜高知〜松山のような)徳島を組み込んだ回遊プランがないことに結びついています。徳島市に来てさらに南をめざすとなると、(四国巡礼を除いて)引き返すことになります。

 徳島県では、かつて南阿波サンラインに観光拠点を整備しましたが、やがて閉鎖に追い込まれました。県南部は宿泊収容数も少なく団体観光客を受け容れる態勢が十分ではないうえ、回遊性の不利な条件も重なって四国のなかでは独立した観光圏を形成するようになりました。逆にいえば、滞在してもらえるということです。

 このことが幸いし、ある種の人たちの間では知る人ぞ知る聖地として知られるようになりました。時間をかけて全国を周遊したところ、四国東南部(海部地域)がもっとも好きになって定住するようになった人たちは少なくありません。そんな人々が異口同音に海部の海、山、川の魅力を語ります。

(2)海部郡の特性
 海部(かいふ)郡は、徳島県南部の海岸線に連なる東経134 度30分、北緯33度40分付近を中心に、北から、美波町(旧由岐町、旧日和佐町)、牟岐町、海陽町(旧海南町、旧海部町、旧宍喰町)の3つの町からなります。温暖な海洋性気候に包まれ、年平均気温16度以上、年降水量は平野部で2,500o〜3,000o、山間部では3,000oを越えて4,000oに達する全国でも有数の多雨地域となっています。

 海部山地を潤した雨は、日和佐川、牟岐川、海部川、宍喰川などの流れとなって黒潮洗う太平洋に注いでいます。いずれの川にもダムはなく、山のミネラルがそのまま海に届きます。なかでも海部川は、そのコバルトブルーの水の美しさに魅せられて訪れる人が絶えない知られざる清流です。

 阿南市南端の蒲生田岬(かもうだみさき)から室戸岬に連なる四国東南部の海岸線は、室戸阿南海岸国定公園に指定され、白砂青松の渚とリアス式海岸が交互に現れながら百キロ以上も続く海岸線です。海の色が千変万化しながらきらめく眺望のすばらしさは想像に絶するほどです。旧宍喰町を越えると国道55号線は、左手に太平洋、右手には山が迫る真っ只中を室戸岬をめざしてひたすら走り抜けることになります。ここでは空と海の境はありません。

 千二百年の昔、空海が密教の修行のために地の果てを訪れました。その足跡が四国八十八ケ所巡礼となり、歩くお遍路さんの姿とそれをもてなす人々の関係として脈々と受け継がれています。

 豊かな恵みをもたらしてきた海部の海ですが、地球温暖化の影響や乱獲などが原因で漁獲高はイセエビを除いて年々減少を続けており、漁業後継者に希望が持てない状況です。他にこれといった産業のない海部郡の人口は減少を続け、人口の約3割が65歳以上という高齢化が著しい地域で、小児科や産婦人科医療の確保も深刻です。その一方で、この地域に魅せられて移り住む人たち(Iターン者)も少なくありません。

 1997年と98年にはプロサーフィン世界選手権大会が海部郡と接する高知県東洋町の生見海岸で開かれ、国内外から多数の参加者と観客がこの地域を訪れました。世界的な波とも評される海部ポイントや生見海岸では、一年を通して波と戯れるサーファーの姿が絶えることはありません。

 太平洋岸の南東部に面した海岸は背景に山を持ち、冬の北西風をさえぎります。こうした自然条件を備えた地域として、宮崎の日南海岸、伊勢志摩から南紀に至る海岸線、伊豆・下田の海岸線、房総半島南部などがありますが、いずれも大都市圏の手頃な避暑地や冬の訪問先となっています。いまなら団塊の世代の終の棲家の有力候補となりえるでしょう。
 1998年に明石海峡大橋が開通し、四国東部と京阪神が最短ルートで陸続きになってからは、時間距離の短縮により淡路島経由で阪神方面からの短期滞在の観光客が増加しています。青い海や清流がもたらす心の癒しを求めて京阪神から訪れる週末の訪問先として、室戸阿南海岸は注目を集めるようになっています。

 環境破壊が深刻化するなかで人々が心の安らぎを求めています。一方で国家財政は破たんの兆しをみせ、地域主権、地域の人たちによる自主的なまちづくりの必要性が高まっています。

 そんないまだからこそ自然との共生、持続的な地域づくりは暮らしの最優先課題となっています。「自然を活かす」のではなく、「自然を殺さない」発想、エコツーリズムや体験型観光に代表される新しい観光の流れを地域経済の循環に組み込み、そのメッセージをわかりやすく発信できたとき、自然を求めて人々が交流する未来の南阿波のイメージが浮かんできます。

(3)現代のなかで癒しの位置づけ 
 現代人は目的を持って生活することを強要されています。社会に出れば、目標(成果指標)設定を行い、その達成度に応じて評価されます。失敗しないためにhow to 本を読み、安全なレールを選んで歩こうとする、そのことがまた新たなストレスを生み出します。

 こうした生活から離れた生活場面を求める人たちは癒しを求めています。ところが求めていたはずの癒しも本質的な解決にはつながらないかもしれません。「もしかして、現実逃避かも…」。ただ心地よいだけでは魂のやすらぎは得られないことに気付き始めています。

 無目的に、無条件に我を忘れて打ち込む瞬間。岡本太郎はそれを「爆発」と看破し、瀬戸内寂聴は「切に生きる」と表現しました。マラソンでも登山でもサーフィンでも水泳でもそうですが、夢中になって挑んでいるうち恍惚の至福感を感じることがあります。

 波に乗るときもシーカヤックに乗るときも、健康のため、金儲けのため、生活のためなどではない、いわば無目的。
 ぽっかりと地球にひとり。あるのはただ自然と己だけ。やがて自我さえも消えて生命が輝く感覚。真の癒しは、力の限り挑戦し、苦悩に立ち向かった人にだけ訪れます。

 今回は、エコツーリズム、体験型観光からさらに一歩踏み出し、訪問者が南阿波の風土のなかで果敢に挑戦するアウトドア道場を描いてみました。

 ただ好きだからやっている、特に理由はないけどやっている。だからかっこいい。だから楽しい―。そんな野外生活の提案をしてみたかったのです。次号で具体的なコースのご紹介を行います。お楽しみに。

 

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