「経営の魔法はないけれど、成功するコツならあります」


 商店街やまちづくりでは、「なにか全国の参考になる事例はないか?」。事業所なら「儲かる業種は?」「客が増えるにはどうすればいい?」など手法についての質問が多い。「やりかたを知りたい」ということで世の中にhow to本が多いのも頷ける。

 ところが、手法というのは、すでに賞味期限を過ぎていることが多い。「すでにやっていること」「成功したセミの抜け殻」である。アイデアに重点が置かれた手法の場合は、新規性、話題性(ここが大事)を武器にマスコミをうまく活用して物語をつくりだしている。二番煎じはもうない。

 先進事例の資料をやたら集めても無意味。成功パターンをなぞる意欲は買えるけれど、単なる模倣では自分(自社、地元)の場合はどうなのか?という吟味ができていない。その結果、そのまま移植してもなじまないものになるか、アレンジ(妥協)しすぎて、オリジナルの持つ精神を失ってしまうかのいずれかだ。

 とすれば、成功のカギ、本質を見極める洞察力が欠かせない。洞察力のない人に手法を紹介すると、かたちをマネすることにとらわれても本質を掴むことはできず、成功することは少ない。

 手法のなかにはしくみ(枠組み)もある。あれをこうして、あそこと連携して結果につなげようというプロセスの設計である。しくみをつくるには、そのしくみを使うことで参加者に利点があることが不可欠。メリットがなければ自主的な参画は望めない。

 さらに欠くことができない要素がある。それは、その人の持つオーラとでもいうべき、思いの深さ、一途さ、熱意。それに創意工夫が加わって醸し出される独特の雰囲気。そのオーラを動かしているのが、「人のため、社会のため」という信念であると思う。

 つまり、しくみを定着させるには、互恵的な関係となれるプロセスのほかに、「巻き込み」が必要だということ。行動力があってもひとりよがりで誰も付いていかなかったり、既存の組織、部署(ガチガチの価値観を持っている場合が多い)とケンカしがち。けれどもそうした人たちも巻き込んでいかなければ、しくみは機能しない。

 いつも取り上げている上勝町の「いろどり」は、葉っぱを売ろうとする独創性で○、ITを活用して情報管理をしながら販売するプロセスをつくったことで○、そして、それを横石さんという個人の熱意、創意工夫が人々を動かしていったという点で○、ということになる。
 さびれた地域をなんとかしたい、山村で農家が暮らしていけるような産業を興したいという信念があったからアイデアがひらめき、プロセスを思いつき、そこに共感が集まって巻き込めて成功したのではないだろうか。

 徳島市の中道鉄工(株)は、平成17年度の経済産業省「第1回ものづくり日本大賞」の製造・生産プロセス部門において優秀賞を受賞を受賞した企業である。応接室には、当社の設備を今上天皇が視察されているお写真が飾られているし、日本有数のメーカーなども当社に関心を寄せている。

 製造業では、部品を組み立てる工程、材料を供給する装置などが不可欠である。その際に小さな部品の向きを揃えて一定数量を供給しなければならない。従来は、振動を利用するなどして作業を行っていたが、騒音が生じ、部品同士がぶつかることで傷みが発生するなどの問題があった。当社では、回転力を利用して、独特の形状の治具に触れるだけで部品や材料が自ずから静かに高速に整列していく。実際に見ると、あまりの簡単さ、見事さに声も出ないほどである。しかも治具の調整、交換で多様な部品に対応できる。

 それでは、たまたまひらめいたのかと考えがちであるが、そうではないと思う。
 とあるパネルディスカッションで中道社長はこう話している。「当社は年2回、東京、大阪で開かれる展示会に機械を出品している。展示会を通じ、世の中のニーズを汲み取っている。展示会で機械を売ろうとしているのではなく、機械を出展してお客さんの声を聞く機会にしている。いろいろな考え方、思いもよらないヒントが得られることもある。思いつきでやった商品開発はうまくいかないが、ニーズを聞きながら開発すればリスクが少なく商品化ができる」。

 中道社長は営業はなさらず、展示会でニーズを探索している。当社の提案にどのように反応するか、何が解決できれば良いのかを見極めている。採算性の点から大手が参入しないが、小さくても確実にニーズ(これまで解決されていない課題に苦労している顧客がいる)が存在する市場がある。それを見つけることが第1ステップ。

 ニッチな市場が見つかったとして、それを解決しなければならない。大手企業の高度な理論を学んだエリートエンジニア集団が解決できなかったことを、中道社長は短期間で解決して試作機というかたちで提案する。

 ものづくりについての中道社長の考えである。
「ものづくりには三つある。ひとつは"作る"。これは人を介してものをつくるということ。もうひとつは"造る"。これは材料にかたちを付けて有形のものにする。最後は"創る"」。
 解釈すれば、ものをつくるには、理念、技術、感性という要素があるのではないかと。

 中道社長は、洞察力の優れた方である。一過性のアイデアに支えられた再現性のないひらめきではなく、どんな場面においても答えを導くプロセスを持っていらっしゃるように思われる(それがスペシャリストとプロフェッショナルの違い)。

 中道社長の淡々とお話される姿勢はプラス志向というよりも自然体。成功しようが失敗しようが本質を見極めて解決策を考えることに喜びを感じていらっしゃるようである。

 経営支援の経験から申し上げれば、理念のない事業所が手段を身に付けてもホンモノでない匂いを顧客は感じてしまう。手段に長けているだけでは波の激しい不安定な経営になりがち(例えば、楽天のネット販売では楽天メソッド<話題づくり、販促>を止めると売上が下がるなど)。感性が優れていても手段を吟味しなければアイデアに走って経営資源が分散し事業は危機に陥る。理念が明確だがやりかたがわからない事業所が手段を身に付けると急拡大はしなくても安定成長する可能性が高い。

 理念(気持ち)、感性(発想力)、手段(技術)のすべてが揃う経営者(コンサルタントも同様)は滅多にいない。しかし、成功する企業には(経営者一人が担わなくても)この3つが備わっている。人のため、社会のために役立ちたい、解決したい、貢献したいという動機が原点となり、感性で課題の本質を発見し、創意工夫と熱意で解決する。

 経営が成功する魔法は知らないけれど、この3つをどのように芽を出し、育てていけるかを考えることが実りの秋につながるのではありませんかと答えたい。

【洞察】(出典「大辞林第三版」から一部抜粋)
(1) 鋭い観察力で物事を見通すこと。見抜くこと。
(2) 新しい事態に直面したとき,過去の経験によるのではなく,課題と関連させて全体の状況を把握し直すことにより突然課題を解決すること。見通し。

 

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