「流域共同体」の第一歩は、地産地消を軸にした地域認証制度から

 分水嶺で囲まれた地域では、山に降った雨がひとつの川に集まる。それを流域という。
 流域では、自然地形の結びつきの強さから、ひとの行き来や経済圏が形成されるなど一体感が強い。
 勝浦川流域を例に取ると、小松島市内を流れる神田瀬川は、勝浦川の古い流れの跡。言い換えれば、勝浦川の氾濫がつくりだした沖積平野に住んでいるのが小松島市民である。その小松島の強みは、徳島市内に隣接し、温暖で福祉医療が充実していることである。
 上流の上勝町、勝浦町は、かつて林業や柑橘類でにぎわった時期があったが、いまでは、葉っぱが2億5千間円に化けた「彩」事業、環境重視であっと言わせた「ごみゼロ宣言」、さかもとグリーンツーリズムなど、中山間地域でありながら、ひとの知恵と熱意が地域の価値を高めている印象がある。

 内閣府が自然共生型流域交流圏という構想を打ち出している。勝浦川流域は、旧勝浦郡であり、帆船が中流当たりまで行き交った。いまでは小松島のショッピングセンターに上流から買い物客が訪れるし、日赤病院という患者満足度の高い病院もある。合併議論とは無関係に流域の交流圏は、買い物や医療の分野を中心にすでに存在する。

 しかし、下流の人たちは上流を知らない。合併相手先として大きな都市を望むなど、上流の動きを知らないし、そこから恩恵を受けている事実も認識されていない。

 そんななかで、自然農の哲学と互恵的な地域社会の構築を目標に「身土不二屋」という店舗が小松島のルピア前に近々オープンする。市内で文具店を営む経営者が5年をかけて、生産者、配達者、販売者と生活者を結ぶしくみ(ビジネスモデル)を考えたもので、理想的な地産地消を進めていこうとするモデル事例として注目される。

 一方で、流域内の農業者にとっては、一気にそこまで到達することはできない。そこで地産地消の考えを軸に、流域内で農作物の独自の認証(地域認証)制度をつくることを提案したい。食と健康、環境保全という今日的な視点、流域内の経済的循環という利点、さらには自律的な地域づくりや生き甲斐などの社会的な意義を込めている。

地域認証は地域の環境と経済が結びついた流域共同体として提示するものだが、それをどう発展させていくかについても方向性が見えてきた

地域認証は、異業種との連携でさらにおもしろくなる。例えば、医療や福祉の専門家からは、健康づくり、健康サポートとして、流域認証の野菜を使った予防食の開発、提供、提案などが考えられる。健康福祉都市をめざす小松島、独自の農業施策、グリーンツーリズムで活路を開こうとする上勝町、勝浦町の施策とも整合性があり、このような流域共同体を形成することで、さらに実りある展開となる。

個々の課題としては、農作物を提供する農家への啓発がある。農家にとってのメリットは流通の短縮化、規格外での出荷も可能なことから所得の向上が見込まれる。さらには生活者と直接結ぶ副産物として、消費者の声を聞くことによる意識改革や熟年者の生き甲斐につながることが予想される。生活者は、安全、安心の食生活、生産者と顔が見える関係による地域認証作物のファンとなる。

ここで大切なのは、いい作物を地元に流すという農家の意識(しくみ)である。いい作物を京阪神の市場に流し、余りを地元に供給するのではうまくいかない。しかし流通を短縮できる地域認証による地産地消制度は、生産者にとっては市場よりも高く売れることがわかれば、野菜は地元に出そうということになるだろう。

農作物以外にも、一定の基準(理念)を満たすものを地域認証製品とすれば、経済活動がさらに拡がる。例えば、家を建てる人は、上流の森を見に行き、欲しいと思った木を選び、それを製材して運んでもらう。生産者から生活者に直接届ける流通を構築すること、流域に眠っている大工さんたちを活用する(技術の継承が期待される)ことが前提となる。条件を満たしたときに一定の補助が受けられる「流域木材特区」などもあり得るだろう。

勝浦川流域には、知られざるすぐれた産品が少なくないが、「ないものねだり」ではなく、地域に「あるもの探し」をし、それらをつなぐ経済システムによって地域から情報発信し、それに賛同する人が増えれば地域ブランドが形成される。

実施に向けての最大のカギは人である。熱意と創意工夫あふれる人たちに役割を与えれば、自ずとしくみと財源は付いてくる(というか、その人たちが解決策を考える)だろうが、流域の暮らしの拠り所(地域理念)となる「勝浦川流域憲章」のような存在も必要になってくる。

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