小売店はとんがりコンセプトで広域商圏化をねらう
商業は立地であると言われる。商圏人口の多い地域ではそうかもしれないけれど、近年では別の力学が働いているように思う。それは、差別化(=高付加価値化)の要素がより濃くなってきたからではないかと思う。
辺鄙な場所で近年に開業したうどん店がある。週末などは店の外に行列ができるほど。店はしもたやを改装したようでお金をかけていないし、立地が田園地帯の住宅街の一角にあり、車が対抗しかねる細い道を通って店にたどりつくのはオリエンテーリングをしているようである。
納得できるうどんを提供すべく数量は限られているらしく、閉店時間を待たずして売り切れるようだ。もしこの人がありふれたコンサルタントに経営相談をしたとしたら、この立地では商売はできないから、パイパス沿いか県道沿いに出て行きましょう、などと助言されるだろう。
けれども、もしこの店が立地の良いところで営業していたらどうだっただろう。条件の良い立地に出店するとなると、それなりの店構えが必要となる。出店費用は高くなるから、その固定費(経費、金利、借入金返済)を賄うためには価格は高く設定せざるをえない。営業時間を延長することもありうる。いついっても食べられる「そこそこおいしい」うどんになっているかもしれない。しかしそれでは店の神話はつくられず顧客の口コミは期待できない。
建物をみれば「お金をかけていない分、安くてうまいだろう」「こんなところで商売するんだから自信があるのだろう」と人は連想する。友人からの口コミで頭のなかに「うまい」がすり込まれていたなら、無事たどりついて一杯のうどんを食べることが儀式になっている。不利な条件がかえって差別化の要素として働くような状況をつくりだしている、と言い換えてもいいだろう。
このところ購買力が著しく落ちた地域がある。その一つが海部郡で、多くの企業や店の業績が下がり続けている。海部郡内で手厚い商売をして一財産を築いた人々は少なくないが、いまではそんな人たちさえも苦しくなっている。漁業の不振、公共事業の減少、高齢化と子どもの減少、公立病院の業務縮小などさまざまな原因が重なり合っているのだろう。平成19年には日和佐道路が開通すると、人口2万数千人の地域購買力は阿南、徳島へと逃げ出すことが予測され、経営環境はさらに厳しくなる。
とはいえ、海部が好きで、先祖代々の資産を継承して墓守となり、自然に包まれて豊かな暮らしを続けていこうと思うなら方策はきっとある。
◆地域ブランドと個々の特色
方策があるとすれば、地域全体で統一したイメージを発信すること、その担い手となる事業や産業に従事する有志を集め、そのイメージに沿ってメンバーが行動することである。これは、あくまで組織ではなく「有志」(ネットワーク)でなければならない。身軽に良いと思ったことを熱意を持ってやりとげることが必要だが、それは既存の組織ではむずかしいからだ。
海部地区以外では、鳴門市街地、三好地区、麻植地区、勝浦地区、海部地区に地域ブランドの可能性があるように思われる。
鳴門市街地は鳴門金時、れんこん、タイ、わかめといった全国ブランド品に囲まれているが、それらとは無関係に存在する隠れたB級グルメ(キーワードはアンチブランド)、三好地区は、阿波池田を玄関口に市街地から尾根の集落を結ぶ回遊ルート(キーワードは、いにしえ)。麻植地区は、団塊の世代がなごめる土地(キーワードはのんきな父さん、広い中州、やおよろずの神)。勝浦地区は、すでに上勝を中心に地域ブランドを形成しつつあるが、環境イメージの高さで集まる人々を受け入れる態勢の構築が持続的発展のカギとなる。海部地区のキーワードは、「○○のない川」(○○とは何か考えてみてください)。○○のない川は、何を象徴するのか、そこからどんな輝きが生み出されているのか、それをどうやれば濃いイメージに結びつけられるかである。
いずれにも共通するのは、そこに暮らす人たちの元気と誇りに共感して外から人が集まり、お金が動くこと。徳島は、それを可能とする全国でも有数の地域資源(潜在的な可能性)を持っていて、地域の一部の人たちがそれに気付き始めている。徳島の秘めた可能性は無限であるのに、身体がひとつしかないことがもどかしく感じる。
◆海部では…
再び海部に戻ってみよう。人口の少ない地域であるから、どうしても万人向きの最大公約数マーケティングに走りやすい。
ところが地域の水準を低く見積もり、商品やサービスをそこに合わせたらどうなるだろう。例えば漁師町が味が濃くなる傾向があるとはいえ、現代の水準からは辛すぎる料理や甘すぎるお菓子を提供してはいないだろうか? 地域の人たちは車で移動し、うまいケーキを食べに神戸に行くこともあれば、洗練されたフランス料理を食べに市内に行くこともある。あるいは、インターネットですでにうまいものを体験している人もいるかもしれない。
あるいは逆に昔ながらの風味(物語)を地域外のひとにうまく伝えきれていないのではないか。
そこで、これまでより絞りこんだ商品やサービス(ほんものではあるが、高価格という意味ではない)を提供してみる。言い換えたら、コンセプトを明確にして顧客を絞りこむ(捨てる勇気)ことだ。もしかしたら100人のうち3人しか良さがわからないかもしれないが、それでもいい。この「とんがり」が商圏の広域化につながる(車社会を逆手に取る)。この「とんがり」が何かを理解し共有できる人たちが「有志」ということになる。
現実的にはそれだけでは数字がつくれない(固定費が賄えない)こともある。となればインターネットの出番となる。ひとつはやや遠方の商圏から来店してもらうための情報発信として。もうひとつはEコマース。地元では安くしか売れないが、他地域に持っていけば高く売れる品々は少なくない。そこでは脱地元相場の価格形成が可能になる。
都市の人たちがどんな「もの」「こと」「言葉」「イメージ」に魅力を感じるのかを知ることが重要だ。答えは、「楽天」で売れている店を見ればいい。そこで多用されている文言には、「匠の技」「こだわりの〜」などといった陳腐化した文言の代わりに、もっと感覚的なフレーズが多様されていることに気付く。ただしEコマースのノウハウは一朝一夕で獲得できるものではない。それが得意な人たちと提携するのが賢明だ。
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