「危機感がないからテクニックに走る」


 今月は手厳しいお話です。

 人口が減少し、諸物価が高騰。庶民の所得は増えず、国家財政も破たんの懸念を迎えています。そんな時期に経営する、地域活性化を行動するには覚悟が必要です。

 経営相談、地域活性化相談を受けるなかで共通した傾向は2つ。「危機感がないこと」「テクニックに頼りすぎること」です。

 ですから、テクニックを教えてくれるノウハウブックや流通を合理化するシステム(しくみ)にすぐに飛びついて、ものにならずに「やらなければよかった」となっている例が散見されます。前者は「たった三日でバカ売れ…」みたいな触れ込み、後者は「決済システムの完備でお客様の購買率が○○%アップ」などのうたい文句でしょうか。
 あるいは、ホームページを見ると、ずらりと製品がところ狭しと並べられ、決済ボタンが付いているWebサイト(ああ、またかと思います)。

 お金がない、儲からないなどと言いながら、(あまり意味のない)設備投資をしている事業所は少なくないのです。行動するベクトルが違うのでは?
 とはいえ、「こうすればできる」の方策も必要なのでお伝えします。しかしそれを聞いて数日経っても数ヶ月経っても「行動しない」。だから何も変わらない。危機感がないと申し上げています。

 テクニックに頼る危うさとはどんなことでしょうか? もしそれが売れることに結びつくのであれば、いまの時代、あっという間にノウハウが広まり、猫も杓子も同じ売り方で違うのは看板だけ、ということになります。

 事実、いくつかの業界で花火のように同じ売り方が流行したことがありました。こうした事業所をレベルの高い生活者は冷徹に見ています。そしてレッテルを貼ります。理念がないのだと。

 過去の経験があてにならないといいます。確かに高度経済成長期の手段はそうでしょう。ただしそれよりもっと以前、例えば、昭和の良き時代、江戸時代の生活共同体のありかたなど、いまの商売や地域に失われた感触があります。
 (かたちだけとはいえ)昭和のまちづくりを重点的に投資を行った豊後高田では、まちなかに多くの人を集めています。それだけにとどまらず、そばの作付け、そば店の開業を奨励してそば産地として売り出すなど地域戦略がありますね。

 高度経済成長の手法とは、効率的に流通を行うことです。もっといえば、多くの個数を不特定多数の人に合理的に供給する流通をめざしていました。人口が増加し、モノ不足気味で、つくれば売れる、並べれば売れる時代の戦略としては時代に適合していたのです。

 ところが、少子高齢化が進展、人口減少、地球温暖化対策が最優先のいまの時代、限られた経営活動の時間や費用を何に対して最適化(合理化)するかの見極めが必要です。

 多くの事業所、地域が合理化しようとしているのが、いまだに1個でも多くの個数を不特定多数の人に売ることのようです。そこに費用を投下することに対してあまり注意を払われていないような気がします。いわば、販売促進依存の波の激しい一過性のマーケティングをめざしているかのようです。
 
 こんな例え話はいかがでしょうか。あるホテルがありました。あるお客は喫煙室をつくってほしい、あるお客は、無線LANでパソコンと接続できるようにしてほしい、別の客は、女性向けのアロママッサージを充実させてほしい、別の客は、岩盤浴の施設がほしい…。
 ありがちな要望ですね。
 これらに対して、
「顧客の要望に応えるのがホテルの使命である」と考える支配人がいれば、設備投資を行って顧客ニーズに対応しようとするでしょう。

 しかし、それで顧客満足度は上がるでしょうか?
 「喫煙室ができたけど、汚くて狭いから外で吸おう」
「接続のセキュリティに不安」
「岩盤が汗がしみついて臭い」
「好みのアロマが置いていない」
などのようになることはないのでしょうか?
もし、この場合、
さらなる設備投資で内容の充実を図るべきなのでしょうか?
 
 もうおわかりのように、
顧客ニーズに対応することが出発点ではなく、
どんな顧客を満足させたいのかが
それ以前にあるということですね。
ビジネスの出張といえば男性が多い。
だからビジネスホテルは、男性客向けのサービスが中心で、大浴場も男性用は広くても女性用は狭い。
エレベータで酒臭いおじさんと隣り合わせるのもイヤ。
女性専用のビジネスホテルをつくろう、
という発想が出てきます。
女性役員や社員の出張の疲れを癒すのみならず、
出張が楽しくなるようなホテルとなれば、
誰でも泊まりたくなるでしょう。
必要な機能を絞りこみ、
メリハリを付けて投資を行ったために、
投資償還性は良好で、
顧客の満足度も高くいつも稼働率が良い。
実際にうまくいくかどうかは別にして
例え話としておわかりいただけると思います。

 しかし…。顧客を絞りこむのはホテルの使命ではない、
.地方で顧客を絞りこむと顧客数が確保できない、
顧客を絞りこむことに意味があるとは思えない…
のような反応が返ってくることも少なくありません。

 それではお尋ねします。「星の数ほどあるホテルのなかで、あなたのホテルを選ぶ理由は何ですか?」
 業界を問わず、差別化ができていないまま、何を強化するのでしょうか?
 顧客を絞りこみ、その顧客に合わせて品質を高めていく、という作業が行われているでしょうか? どこの事業所でもできる顧客の絞り込みの具体策については、次回以降にお話しします。
 
 人口が減少し、市場が縮小するなかで、すべてのニーズに対応することをめざして投資がかさみ、固定費を償却するために売上が必要となっている。その結果、どこにでもあるものでその事業所、地域を選ぶ理由がない、ということになっていませんか?

 すでに戦略を変えようとしている事業所はたくさんあります。「総合」という位置づけから「専門」「地元密着」の要素を取り入れようとするものです。「総合食料品店」であるスーパーでは、地産地消のコーナーが増えていることにお気づきのことと思います。

 顧客を絞りこむ → 少ない投資 → 顧客に合わせた提供品質 → 顧客満足度上がる → 収益性上がる → 損益分岐点の安全度、収益性、資金償還性高まる

 経営戦略、地域戦略とも、元をたどれば、理念がないことに尽きます。理念とは、約束事、未来の道しるべ、行動規範、メッセージです。その理念に基づいて、理念がぶれることなく、その理念の実現はどこがカギなのかを感性を羽ばたかせてヒントをつかみ、あとは夢の実現に向かって365日の地道な作業を(信念を持って)積み重ねていく。

 差別化の根源は、目には見えにくい「理念」「感性」レベルにあります。ところが地域視察では相変わらず「方策」を見ているのみ。
 理念が出発点、感性がはばたくヒント、そこまで決まれば、方策(戦略)は自ずと見つかる―。そんなこと、できていますか?

 

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