「適正規模に集中する」
適正規模に集中する
先日、教育関連のコンテンツを作成している社長夫妻がわざわざ東京からお越しいただき、楽しいお話を聞かせていただいた。きっかけは、空と海のWebサイトをご覧になって、ぜひとも話がしたいと思われたとのこと。
社長は、ベクターというダウンロードサイト(パッケージなどをつくらずインターネットで電子データを販売する)では常時ベストテンに入る人気アプリケーションを提供しているメディア企業を経営されている。その持続性をライバル企業はうらやましがる。瞬間風速的に売れてもあとが続かないと膨れあがった固定費が経営悪化を招く。あるゲームメーカーの商品がヒットしたとき「過去最高の売上を記録」したが、同時に「過去最悪の損失」を計上した。商品を求めて顧客が殺到する場面を見る限り、ぱたりと売上が止まるなんて予想できない。製造した商品を廃棄するという直接的な損失に加えて増産、増員態勢が重荷となる。他に売れる商品があったのにその商品を選んだのだから機会損失もある。さらに一年遅れで法人税がどっさり来るというおまけ付き。だから大ヒットを出さずにコンスタントに売れることが経営の理想だ。
社長は、ニッチな市場における適正規模は1万人程度ではないかという。それ以上になると、商品の熱烈なファンや良好なコミュニケーションを保つことができる顧客ばかりではなくなる。メールマガジンも発行しているが、それも購読者数は1万人程度に抑えている。
そんな経験則に導かれた信念を持つ社長は、いまをときめく巨大ITグループ企業とも対等に取引をしている。しかし生き馬の目を抜くような世界で休みなく仕事を続けてきたご夫妻は体調を壊してしまった。50歳を少々過ぎたいま、適正な規模を想定したビジネスを念頭に、新しい生き方をしたいと思うようになられたのではないのだろうか。
メディアやコンテンツの作成なら、通信手段さえ確保できれば何も東京にこだわる必要はない。ただしインターネットの高速通信網は不可欠とのことで、県内の自治体の通信網の整備の現状や地域の住民の気質、Iターンを受け容れる素地などについて意見交換を行った。
社長の描く夢は、徳島で成り立つビジネスである。いや徳島こそ適地かもしれない。この一週間、社長夫妻が県内をくまなくまわって候補に挙げた場所は、ぼくも目を付けていた場所だった。それを県外からやって来て何の土地勘もなく探し出されるとは驚いた。けれど徳島にこだわらず、理想の地を求めて全国を探してみるともいう。
社長のビジネスの内容をここで披露することはできないけれど、もしそんなビジネスを始められるのならすばらしい。ぼくにも徳島ならではのビジネスプランがある。それは徳島での理想が織り込まれ、現実性があって誰も手がけていない。製品自体の独創性はもちろん、材料の集め方や地域の生活者の参画に特徴を持たせたもので、コミュニティビジネス的ではあるがあくまで収益企業としての使命を考えている。ビジネスプランは、目標や成果、するべきことの因果関係をバランススコアカード(最近注目を集めている経営管理の手法)で結わえて提示できる。
適正規模を想定しそこに意識を集中してみる。数字だけを追いかけると信用が低下、収益性が低下、安全性が低下の悪循環に陥る(昨日訪問した製造小売業でもそれを痛感した)。売上目標○○円を実現するための顧客はどんな顔をした人たちでどこにどれぐらいいるのか。その人たちにどんなコンテンツをどのように提供するのか―。
楽しんでくれる人たち、価値を交換する人たちの顔を思い浮かべてそのために何ができるかを真剣に考えるとき、マーケティングはそんなにむずかしくない。
追記
徳島を好きになってくれるひとは少なくないのに…。
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