しくみ より ひと
アテネ五輪で日本選手が活躍した。以前の日本選手と違う雰囲気を感じる人も少なくないだろう。オリンピックとは関係ないが「体育会系」という言葉に対するぼくのイメージは、「他人に無神経だけれども自分に対しては繊細、調子のいいときは前へ進むが、窮地に立ったときにもろい」。要するに精神や肉体を自己管理できないという印象を持っていた。
ところが期待されての重圧のなかでアテネで成果を出す選手が相次いだ。競技に勝つには、「観察力(分析力)」「表現力」「行動力」「共感力」の4つの能力の高い均衡が不可欠で、体育会系から発展してきた日本選手団にはそれが欠けているのではと思っていた。
自分や競争相手がどのような状況にあるかを冷静に把握し、ただちに的確に行動する。表現力を持つことで仲間や観客との意思疎通がやりやすくなり、つながりを感じつつ自分を高める。信じる気持ちの強さと相まって本番で力を発揮する。身体的能力や競技技能は、普段からのそんな循環のなかで得ていくものではないかと思うのだ。
経営も同じだ。最近痛切するのは、「ひと > しくみ」だ。よく知られた上勝町の「彩り」は木の葉で2億円を売るが、必要なときに必要な商品を時間までに揃える防災無線ファクスというしくみがある。さらに高齢者の人たちがパソコンでその日の自分の売上順位を見られるという絶妙の仕掛けがあり、互いに競争を楽しんでいる。だからお金を稼いでも旅行に行かない人もいると仕掛け人の横石さんから聞いた。いい順位を取り、それを保つのは本能的な人間の行動だからだ。
この事例を見ると「しくみ > ひと」のように見える。「彩り」については、これまでマスコミでたびたび紹介され、視察も受け容れてきた。そのシステムはやろうと思えば誰でも真似することは可能だ。しかしいまでも大阪市場では、上勝産がシェア90%を占める。しくみを動かすのは生身の人間にほかならない。
いい人材がいて、その人がしくみをつくる。自分でやる、広がっていく。決してコンサルタントや施策が「いいしくみを与えてそれを活用する」ではない。品質管理などの標準化の手順であるISOは典型的な「しくみありき」であって、そこに関わる生身の人たちの顔が見えてこない。対外的なイメージや取引のための規格であることは、多くの導入企業が認めているところだ。
そこで従来からの理念・戦略・マーケティングの概念図も次図のように書き換えてみた。従業員の顔が見える規模の中小企業までを想定している(次号に続く)。
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