「拝啓 起業しました」


 ときどき「起業しました」とお便りをいただくことがあります。「ご成功をお祈りいたします」とお返事を出すうれしいひとときです。一度しかない人生、お金や安定よりも大切なこと、それが自分の思うように生きてみることだと思います。だからといって誰にでも起業せよと煽り立てるつもりはありません。自分の生き方に妥協できる人は起業する必要などないししたいとも思わないでしょう。例えば、自分でいいプランだと思って出したプランが頭の固い人たちによって却下されたとき、あなたはどう反応しますか?

 「私はWebがつくれます」「そのうえ英語が得意です」。だからSOHOになりますという人がいたと仮定します。ぼくの答えは「やめておいたほうが…」です。スキルは、事業の成功とほとんど関係ありません。分業化された会社の歯車として働くほうが実入りがいいし、起業すれば自由な時間も取れなくなるでしょう。それでもやりますか?

 確かに緻密な計画、冷静な視点が必要です。しかしなにより大切なのは、あなたの熱い志です。どんな苦難も乗り越えていくつもりなら、ぜひやるべきです。

 そのために欠かせない条件が良きパートナー、人にめぐりあうということに尽きます。なぜなら、個人事業として創業したとしても、これまでにない革新性、利益を生み出していけるしくみ、それも関連する人たち(仕入先、販売先、融資先、出資者、地域住民)がみんなうれしくなるような関係をつくっていくことが事業存続の絶対条件です。

 つまり現場の視点と経営者の視点、機能的には営業+総務+経理+研究開発の視点が、そして冷静な判断力と熱い情熱が1人の人間に求められます。

 例えば財務なら、創業後1〜2年間の資金繰表を作成して最大でどのくらいのキャッシュが必要かを予め予測して準備する手だてを考えねばなりません。営業なら、知名度がないうえに少ない予算で行うプロモーションや販促について頭を悩ますことでしょう。総務なら、法的手続きの処理や就業規則、賃金体系など労務管理があります。経営者としてはビジョンの達成に向けてこれらを大所高所から有機的に統合させなければなりません。

 それらを1人で行うことはかなり無理があるし、損益分岐点上では1人の固定費を1人で賄うのは非効率的です。実際サービス業などでは、ある程度の人数がいたほうが固定費を共有化できて1人当たりの損益分岐点が下がるので採算性は向上します。そのため共同事務所などを構えたり、共同経営やネットワーク参加型にすることも考えられます。

 燃えている反面、起業する人は不安です。こちらにもお電話やメールの相談をいただくことが増えています。戦略面で大切なのは「すること」と「しないこと」をはっきりさせること。つまり、これは自分(の事業所)が行うべきこと、これは行ってはいけないことを明確にしていく作業です。

 言い換えれば、持てる人材、資金、時間、商品/サービス、設備、ノウハウなどをどの分野にどれだけ集中させるかを決定していくことです。その際に考慮することは、自分(の事業所)の経営資源の把握と競合企業の把握、それに市場予測です。やるからにはその分野で一番(商圏内、県内、国内、あるいは世界で)をめざすのは当然です。

 経営資源を集中させると、自社で賄えない分野が出てきます。その場合は、費用の変動費化と機会の効率化を行う、つまり必要なときに適切な専門家を活用するアウトソーシングとなります。もちろん準備の段階でビジョンや戦略策定の支援をコンサルタントに依頼することもできるし、起業のための公的支援の問い合わせ窓口として(財)徳島県中小企業振興公社
(088-654-0101)があります。