「五感を遊ばせる」(2000年3月)

 わずかな匂いや色彩の取り合わせ、音などの要素は、女性客の多い業種ではとても大切(生活のなかで女性をそれとなく観察してみて!)。あるリゾートホテルでお客様アンケートを取ってみると、アロマテラピーに対する要望が年代層を問わず予想以上に多かった。ただし匂いは個人差と嗜好性がある。いつもいる人たちはそこに漂っている香りに気づかず、ついついアロマを強めに発散させてしまいがち。適量について自信がないのなら、最低限イヤな匂いをさせないこと(空気管理)から始めたい。

 匂い対策の一番手は換気。コロンやタバコ臭の強いお客様がいれば複雑に匂いが混ざり合ってしまうし、風邪が流行する冬には暖房に煽られて体臭でむせかえる

 技術的に対処するなら、マイナスイオンを発する空気清浄機が効果的。ただし部屋が広ければあまり効果はない。家電メーカーのN社からは、レナード現象を利用した加湿式清浄機があり、冬場にはウィルス対策も含めてよさそうである。

 BGMの使い方がちょっと変。流行歌や陳腐なムード調クラシックを大音量でかけている店が多い。どこの店もBGMの音量が大きすぎる。そこにいる従業員が頭痛を起こしてしまうし、音の洪水のなかにスタッフを置くことで気配り不感症にさせてしまう。音や香りなどの作用は微量だからこそよいのであって、さりげない気配りがなければ良質の女性客(資力と口コミ力があるオピニオンリーダー)は足を運んでくれない。ニューエイジ音楽やヒーリングミュージックを医療施設や新コンセプトのパチンコ店、花屋さんなどで使ってみたらおもしろいと思うのだけど。

 具体的には、リラクゼーション音楽の専門レーベルのPレーベルやアコースティック楽器によるアーティスト作品を制作しているWレコードの作品ががいい。そのほか宮下富実夫、センスのシンセサイザー音楽は定番であるし、和のイメージであれば姫神、声では、スーザン・オズボーンが深い呼吸のヒーリングボイスを聴かせる。季節によっては、波の音やせせらき、鳥の声、ワールドミュージック(世界の民族音楽)もおもしろい(事務所と同じフロアのレコード店にはいい品が揃っており、何枚か買って事務所で流している)。

 クラシックであれば、印象派のフォーレ「組曲ペレアスとメリザンド」やドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」(指揮者はアンセルメがデュトワ)のような夢幻に漂うニュアンスが日本人の描くラテンの夢だろう。いずれにせよ押しつけがましくならないよう良質の再生装置(響きのよいムク材なんていいなあ)で漂うような小音量でかける。

 鴨島町在住の青木真弓さんのガラス絵が評判である。豊かな表現力で黒人や昆虫などを透明なガラスに描く独特の手法で、二十代のしとやかな女性が趣味で制作しているのだが、作品には力強い生命の輝きがあって温もりがほのかに立ちのぼる。プライベートな部屋に展示してみたいと思わせる。

 テーブルコーディネータのクニエダヤスエの教本は、四季の移ろいを簡素に表現したもので見るだけで楽しい。

 ポスターをどこにでもぺたぺた貼らない、糊の跡はていねいにアルコールで拭いて落とすなどは基本(アルコールは店舗の必需品)である。

 日本人には自然と共鳴する感性が体の奥深く眠っている。店舗感覚は教科書では養われない。五感を自然のなかで遊ばせることから始めたい。徳島市内から約20分、水音高く青石を洗う第十の堰は五感がいきいきとする場所だ。