「魂を込める〜目に見えない現場の情報を掴む」


 ほんものの時代になったと言われます。ニセモノは淘汰されるという意味でいい時代になったと思います。見せかけやテクニックが通用したこの20年ぐらいとは違ってきています。
 企業も個人も、言葉(約束)がほんとうに果たされているかどうかが問われています。

自主性を引き出す

 「ほんもの」という言葉は、服従や命令ではなく、自主性という動機がふさわしいように思われます。「あいさつをしよう」「清掃をしよう」という呼びかけに対し、「自分がしたいからしている」と答える人たちに出会いました。「自分の行動に納得できれば他人の評価は気にしない」「これが私の生き方」といった態度(決してむきだしになることはない)には爽快感さえ感じられます。

 環境問題に取り組んでいる企業があるとします。経営者に信念があって真剣に取り組んでいるのでしょう。それに社員が共感している企業(社員有志の給与の端数を森づくりに役立てている事例もあり)では、原油高などエネルギー調達コストが増加しても、それに耐えうる収益体質をすでに身に付けていることでしょう。
 なぜなら経費削減というのは、人の意識のなかにあるからです。ある企業では、本気で販売管理費の削減に取り組んだ結果、3年間で3割削減できました。

「見えること」

 家庭で太陽光発電を取り入れると、発電量以上に電気使用量を削減できるといわれます。それは、電気使用量が目に見えるメーターを室内に取り付けるためで、数値を見ていると、無駄な電気は使わないようにしようとの意識が働き、こまめに電気を切るようになるからでしょう。

 これは、経営管理の「見える化」(経費の可視化によるコストダウン意識の向上)の効果ということになります。ということは、各経費を毎月の目標を決め、実績と対比(予算実績管理)することで、みんなが数字を日々見えるようにすると良いでしょうね。

 目標を掲げることは動機付けになります。それも自筆の文字で書いておくのが良いとの大脳生理学または産業心理学の研究があります。目標が達成できなくなりそうなときに、取り出して見てみると良いらしいのです(サービス業が使う「クレドカード」もその効用がありそうですね)。

 こうしてみると、まず理念があって、その理念が共感を呼び、自主目標の設定や現場での適切な判断などの自主性を引き出しているという構造がありそうです。

 例えば、「安心安全な食品を製造しながら、地球温暖化を極力防止していく」という理念があったとして、その理念が従業員や取引先、顧客に浸透させていくことです。理念を実現するための方策(戦略)があり、方策を実行していく日々の行動があります。理念によってつながる関係は、自主的な目標設定や行動規範の浸透を生みやすいといえます。

 そしてそのことが企業の利益の原泉となることにお気づきになっておられることと思います。良い企業風土に良い人材が集まり育ち、利益に結びつくということです。

 食品の偽装事件などを行う企業は、いずれ淘汰されるでしょう(現にこれまでの事例はほとんどそうなりました)。カネがすべての企業風土は、いったんカネを生む構造が断ち切られると、心で結びついていないので落ちていくのが早いということでしょうね。
 
インターネットに依存する姿勢からは、ほんものは見えない

 レポートを書くのに図書館通いは要らない、インターネットからの引用と貼り付けで事足りるという人は少なくないでしょう。学生のレポートにはそれが多いと嘆く大学関係者の話を聞いたことがあります。確かに基礎資料の収集という段階を否定するものではありませんが、事例収集となるとそれはどうかな?と思います。

 マスコミの取材を受けて記事になった事業は、事業所自らの宣伝と比べて信頼性は高いといえます。提供された情報についての裏付けを取るので一定の客観性という担保が入るからです。しかし、取材とて書けるのは目に見える部分で、主観や洞察といった切り口は入る余地が少ない(あるいは記者の資質に委ねられる)のです。つまるところ、ほんとうの成功の秘密はわかりません。

 まちづくりで成功した他県の事例をいくつか見ると、広告塔のような華々しいリーダーではなく、実務を担う裏方さんたちの熱意と創意工夫に支えられている、といった事例が少なくありません。これは飛び込んでいかないとわからないことです。

 成功の源は、属人的な要素(いわゆる「人財」ですね)に負うところが大きく、その人たちが持つ洞察力、発想力、行動力、コミュニケーション力に支えられて組織がまとまり、前へ向かって動いているようです。

 できあがったしくみや成果物だけを見ていても得られるものは少ないはず。その成果がどのようにして得られたかを探ることは必要でしょう。ものごとの成功(成果=氷山の海上の部分)には、必ずそこに至る過程(目に見えない努力や背景)がありますから。そのために面と向かって関係者と話をしたり、現場に足を運ぶ必要があるのです。

現場が肌で感じる情報を共有する

 毎日のように事業所を訪問する商売ですから、儲かる事業所の持つ空気とそうでない事業所はすぐにわかります。

 経営者が勉強熱心で決断力もあり、多種多様な経営管理の手法を駆使して社内にしくみを導入している事業所(理想的な経営です)と、そうしたことは立ち後れていますが、どこに課題があるかという問題意識ははずすことはなく、社内でできることから着手している企業とでは、どちらが成長している、どちらが利益率がいいかというと後者です。

 後者の事業所では例外なく、経営者と部課長(あるいは社員)との風通しが良いのです。経営者の前で社員が意見を臆することなく言えるし、経営者が一人ひとりを一本釣りしてノミュニケーションをはかり、経営者の意図、会社がめざすことの浸透を図り、その人に期待することを伝え、不満点の汲み上げなどを行っているようです。

 経営者ですから企業のあるべき姿や理想は描いているのでしょうが、できることから行うという姿勢は経営資源が分散しないメリットを生んでいるのではないでしょうか。だけど、ほんとうに必要な改革(例えば工場の統合や人材の抜擢など)は思い切ってやっておられます。ITの時代になっても変わらぬ部分は厳然とあるのですね。

 担当者が現場から得ている感触や情報のなかには有意義なものがたくさんあり、それらの情報を経営者や上司が汲み取ることが大切ということはおわかりいだけると思います。

 とはいえ、ノミュニーケーションは社員が多くなってくると大変です。それに変わる方策として、経営者の意図の浸透や日々の社員の行動について的確な助言ができたらどんなにいいでしょう。

 出張などで忙しい経営者、飛び込みの受注やクレーム対応で忙しい現場が毎日共有できる数少ない手段はメールでしょう。日報を介する専用ソフトやグループウェアなどのシステムがありますが、それらは会社の事情に合わせて選べばいいだけ。それをどう活用するかが大切です。

 現場に現れた兆候(顧客のクレームなど)から的確に現状を把握し未来を予測するのはITではなく経営者の判断です。部下に的確な助言(命令ではない)を返し続けていると、部下とのやりとりは、事後報告(言い訳)から事前相談、今後の計画や見通しについてに重点が移ってくるでしょう。そこまで持って行けたらいいですね。

 

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