「20代社員のがんばり、30代社員の奮起」

徳島新聞でも紹介されたとある県内の事業所。本業に加えてインターネットでの建材販売を始めた。

インターネットで建材が売れるかという声はあったはずだが、社長の決断は早かった。県や国の専門家派遣事業で中小企業診断士とともに販売戦略を構築し、Webサイトを社内で構築。ファクスや電話営業(担当者一人)でわずか2〜3年で年商の1/4を占める柱にまで成長した。ITを使った経営の成功事例として徳島県代表で担当者が発表を行い、中小企業庁のIT活用成功事例にも選定された。

それが可能なのも、社長が彼女に一任しているため。システム的には物流(倉庫+出荷)を運送会社に外注しているからで、当社は製品の企画開発と営業に集中すればいい。経営資源の選択と集中がうまくできている事例である。

今年度は、新しい企画を準備し、昨年よりさらに業績を上げている。新しい企画とは、インターネットで物販する事業所ならどこでも応用できる。購買者の心理に思いをはせ、ECサイトを側面から補完する役割を持つもので、費用対効果から判断すると、現時点ではもっとも効果的なWeb販促のひとつと考えている。

「メールマガジンのことか?」と思う人もいるだろうが、コミュニケーションの道具という点では同じであっても、あんなに手間はかからないし、ねらいを絞りこんでいるため購買に至るまで速効性がある。

検索エンジン対策にも貢献するがそれが目的ではない。されど複雑なシステムはまったく要しないし、手間もかからない。ときどき商工会などで開いているWebマーケティングのセミナーではそれがどんなのものかご披露しているけれど、機会があればご紹介することにして。

県内で寝具の販売で実績を挙げている事業所もインターネットではテーマを「安眠」に絞り、30前後の若い担当者のがんばりで年々業績を挙げている。

こういう話をすれば、「ああ、人材(人財)か」と思う人もいるだろう。実際にこれらの会社では、若い人の意欲を活かせたわけだが、それだけで話を終わらせることはできない。

実際にアイデアを持つ若手がいたとする。思いついたときは、夜も眠れないほどわくわくしながら次々と夢がふくらんでいく。一夜明けておもむろに会社に行き、その提案を上司にしようと思って躊躇する。あれほど高揚感があって沸き上がる雲のごとく回転していた夜の頭脳が、いざ現実になるとぱたりと止まる。「やっぱりやめとこう」。アイデアが組織を上がっていくたびに縛られていくのが目に見えている。あるいは、単に未熟なアイデアで実行に耐えないものだったかもしれない。いずれにせよ、思いを実現することができない(実現させようとしない)20代社員の日常のひとこまである。

これが30代となると、社内の事情がわかりかけてくる。経験を積んで現場レベルでの実質的な責任者という地位になる。かといって会社に対して批判的な視点は忘れていない。問題意識は依然として持ち続けながら現実と適合させようとする。それが平均的な30代だろう。会社の変革の担い手となるのが30代であり、改革のプロジェクトチームの母体となる人たちだ。

30代に関わらず、なにかを実行しようと思った人たちが組織のなかでどのようにつぶされていくか、あるいは適応できずに飼い慣らされていくかを見るとき、企業経営でもっとも深刻かつ重要な問題として組織のあり方(風土+システム+コミュニケーション)が挙げられるのではないか。社員教育の前に幹部の意識改革が必要だったりするわけだ。

組織のあり方についても、近いうちに書いてみようと思うが、それでは、20〜30代の人材としての自己防衛策は?

それは、「なぜ? どうして?」の視点を持ち、「こうだろう」という仮説を持ち、「こうすればどうだろう」と実行し、その結果を見て修正するというやり方(サイクル)を体内時計のごとく持ち続けることだ。

経営者の立場に立ってみるとわかるが、経営者のグチは「なぜ社員はこんなバカなことをするのだろう。少し考えればわかることではないか」である。言われたことしかやらない(言われたことすらできない)人材がそれだけ社会に多い。経営者から見れば、自分で判断して提案や報告をし、実行案まで作って相談に来る従業員を評価するのは当たり前ということになる。

そうした従業員を会社が評価することを繰り返せば、あるべき姿、なりたい社風に近づいていく。それが例えば同族の放漫経営から会社を守る手だてにもなりうる。

個々の人たちにとって「なぜ〜やってみようサイクル」を持つことの意義は、自分の成長速度を速められることである。問題意識や仮説を持ってものごとに当たるうちに、現象ではなく本質が見えるようになる。それは経験を積まないとできないと言われていたことだが、優秀な20代の人たちを見ていると、経験だけではないということがわかる。それこそ自分のなかにきらきらとした好奇心と問題意識「なぜ〜やってみよう」の循環を持つことで、成長のための時間を短縮している。これはお金で代えられない価値だろう。

もうひとつは、付和雷同しなくなる。これがどんな意味を持つのか。世の中で起きているできごとの大半は現象である。南極の氷が溶けていることは誰でもわかるが、その本質は地球温暖化である。

一方で世の中はモノ余り、少子高齢化、右肩下がりの経済であり、キーワードは独自性、差別化である。経営資源の選択と集中はそれを実現する手段である。そんなときに、見かけ(現象)しか見えないと、「ISOを取得してITに投資すべきです」とみんなと同じ方向へ歩き出すことになる。そうしてぽつんとたたずんでいる、逆方向に歩いている運命の神様(チャンス)を見逃してしまう。

20代のモラトリウム、フリーター…なんてもったいない。二度と戻らぬ時間なのに。30代で会社が安住の地…あなたのキャリア形成は終わっている。でも自分の生き方に納得するかどうか、徹底して生ききるかどうかがが大切。勝ち組とか負け組とか、年収300万円とか3億円とかそんなことは結果に過ぎない。アフリカで人々のためにNGO活動をするのも3億円セレブになるのもどちらも悪くない。価値観とは動く前からの「こだわり」(観念)ではなく、ひたむきに生きていくなかで見えてくる、生命の根源的な動機だと思う。

なお蛇足だが、さきほどのWebマーケティングの新しい手法をぼくが思いついたとき、それを実現することは容易だった。なぜなら、それを必要としている事業所のニーズとこちらの提案が一致したからである。

アイデアについて書いておくと、アイデアは決して思いつきではない。ものごとの動きを観察し、実際に起こっていること(=現象)のなかから、因果関係を取り出して組み立てるうちに、はっと思い当たる。それも長時間考え抜くうちに脳に突如閃光が走る。アイデアとは「論理+直感」の産物であり、その枠組みを持っている人は決してアイデアが涸れることはない。 


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