海外からのラジオ放送を聞いてみよう
このところ海外からのラジオ放送を聞いている。言語は日本語もあれば、英語もある。意味はわからないが、韓国語や中国語の番組に浸るのも悪くない。インターネットの時代にラジオなんてと思う人もいるかもしれないが、活字と違って受け身で(といっても聞くことに集中しているのだけれど)入ってくる情報、しかも新聞には載ってこないようなほのぼのとしたトピックスにはどこか新鮮みがある。

いくつかの放送局とエピソードをご紹介しよう。台湾からの日本語放送によれば、台湾では少子高齢化を憂えて、独身税という税制が導入されかけたが、反対の声が多くて見送られたという。

ラジオ韓国KBSは韓国の公共放送局による海外向け放送だが、日本からはもっとも人気のある放送のひとつ。アジアの放送局は日本人スタッフがいるものの、現地スタッフが中心となっていることが多い。ラジオ韓国ではアナウンサーに愛称が付けられている。コアラさん、ラッコさん、ひまわりさんなど日本語の上手な才色兼備の美人という評判。彼女たちは、ことわざや流行歌に至るまで日本のことをよく知っていて、知らずに聴けば誰も海外の放送番組だとは思わない。

韓国では、なつかしのアニメをインターネットで募集したところ、キャンディキャンディ、未来少年コナン、銀河鉄道999など日本の70年代のアニメがずらりと上位に並んだことが紹介された。しかし日本とアメリカの独占市場であったアニメ業界に韓国が台頭してきて、千と千尋の神隠しは韓国の会社も制作に関わっていたという。

さらに、アジア大会では北朝鮮の美しい女性応援団が話題になっていて、韓国の男性が夢中になっているというエピソードが紹介された。しかしそんなほのぼのとした話題とは別に、日本で北朝鮮と呼んでいる国を韓国では北韓と呼び、ときとして韓国からの韓国語放送に北朝鮮からの妨害電波(ジャミング)が出ていて、北朝鮮の人たちに韓国の放送を聞かせないようになっている。さらに韓国には徴兵制度があって、若者は約2年間、身体能力等によって6等級あるらしいが、兵役に付くのが義務づけられている。友好的な雰囲気のなかに、東アジアの置かれている微妙な情勢を感じる。

韓国語を聴いていると、日本語とよく似た抑揚でなんだかなつかしい感じがする。ぼくは韓国語は話せないが、聞いていると単語のなかには日本語と近い発音がたくさんあり、どちらかがどちらかの方言のようにも感じられる。ぼくは韓国語の抑揚は好きだ。
 
ラジオ韓国にはなんといっても放送1万回を越える人気番組「玄界灘に立つ虹」がある。近くて遠い国、日本と韓国の架け橋となるよう願いを込めて名付けられたのだろう。リスナーからのお便りとパーソナリティの当意即妙の受け応えが楽しい。この番組は、ラジオ韓国のWebサイトからインターネットでも再生できる。短波受信と違って音声はクリアだが、当日の放送分ではないようだ。長年にわたって番組をつくってこられたスタッフには親善大使の称号を送ってあげてもいいのでは。

ベトナムの声、ラジオタイランドも受信状態はよい。どちらも現地の人による日本語で放送され親近感が湧く。インドネシアの声という放送局もファンには欠かせない。アドベンチスト・ワールド・ラジオというグアムの宗教放送局も日本語のプログラムがあるが、良質の番組で宗教的な押しつけがましさは感じられない。

英語放送では、アメリカのVOAとイギリスのBBCが双璧だが、ラジオ日本の海外向け英語放送も海外のリスナーからのお便りなどが紹介され、どんな視点が日本を見ているのか、またそれをどう放送に活かしているのかがわかる。グアムの英語放送やラジオシンガポール、ラジオニュージーランドなどの英語放送もよく聞き取れる。アジア太平洋地域の情報はやはり短波ラジオが一番のようだ。

短波を聴くには短波を受信できるラジオがあればいい。ぼくは数年前にソニーのICF-2001Dという短波ラジオを買った。7万円近くしたが、中学生の頃欲しくて欲しくて買ってもらえなかった本格的BCL(海外放送を聞くことをBCLという)ラジオが欲しくなったのだ。

振り返ってみれば、1970年代は世界的なBCLブームであり、みんな競い合うように珍しい放送局や受信が困難な放送局に挑戦しては受信レポートを送り、放送局からはその証明書としてベリカードを発行してもらっていた。ベリカードはお国柄を反映したデザインでそれを収集するのがBCLの目的のひとつ。カードコレクトみたいな趣味ではあったかもしれないが、各国の実情がわかり親近感を覚えたり、先入観だけで物事を判断していたことに気付いたりと、目に見えない平和的な国際外交に貢献していたと思う。

日本ではタモリがBCLの話題を扱う番組の司会をしていたこともあった。BCLは若者を中心に国民的なブームとなり、人々は海外放送を受信するために高性能のラジオを買い求めた。BCLラジオの人気を二分していたのが、ナショナルの「クーガ」シリーズとソニーの「スカイセンサー」シリーズである。

中学の友人が親にソニーのスカイセンサー5900を買ってもらった。これは短波を直読できるので待ち受け受信ができるという夢のようなメカ。しかもダブルスーパーヘテロダイン方式によって周波数が安定している。そこで毎日彼の家を訪ねてはうっとりしながらダイヤルを回したものだ。このラジオは、ナショナルのクーガ2200とともにベストセラーとなり、また70年代を代表するラジオ、または家電といってもよかった。

ぼくは、スカイセンサーよりもクーガが欲しかった。特にクーガ115。白く輝くアルミパネルのラジオで音の良い16センチスピーカを装備し、低音高音が独立して調整でき、ジャイロアンテナというくるくる回る中波用アンテナを備えていた。その上品で輝くようなスタイルは、この国のラジオのデザインでもっとも美しいと思う。夢のなかですら使っているというぐらい欲しかったのだが、代わりにビクターの3バンドラジオF240が与えられた。

ビクターは、選曲しやすいようバンドスプレッドしていないので選曲にコツがいる。指先に名人芸のごとく微妙に動かして選曲する。感覚的におわかりいだだけると思うが、ある程度の力を入れないと選曲ダイアルが動かない。ところが動くときはどっと動いてしまう。これをダイヤルのバックラッシュという。短波受信ではダイアルを1ミリ動かすと別の放送局になったり、長時間聞いていると周波数がずれてきたり、混信がひどくなってわずかにずらしたりするという操作が必要になる。だからクーガやスカイセンサーがうらやましかった。

しかしこのビクター、今では信じられない音響装備だが低音用ウーハーとホーン付高音用ツィーターを備え、豊かな音の響きを目指していた。海外放送受信に特化したクーガやスカイセンサーと比べると毛色が違うのだ。外部アンテナ端子がないのでビニール線をビクターのロッドアンテナに巻き付け、笑いカワセミの声ではじまる「ラジオオーストラリア」やビッグベンではじまる「BBC」、それから「アンデスの声」や「ドイチェベレ」のような遠い海外の日本語放送を受信しては喜んでいた。今ではACアダプターが故障したのでしまいこんであるが、単純な故障なのでメーカーに部品がなくても直せる人なら直ると思う。

松下のクーガ115はいいな。今は静かな「あの頃のラジオ」ブームがあるような気がするので復刻しても売れるはず。問題は金型の制作費用かな。当時2万円台の半ばであったが、物価をスライドさせると今なら5〜6万円? 受信性能は別にして音は昔のラジオが間違いなくよかった。音を聞く装置(オーディオ)として配慮された設計だったと思う。それに比べれば、いまのラジオはシンセサイザーによる簡単選曲(それはそれで便利で不可欠の機能なんだけど)だが、音質が貧弱でラジオを聞く喜びを味わえない。どなたか自宅に眠っているクーガ115があれば譲っていただけませんか。骨董品でなく日常的に使いたいと思っているところです。

というわけで、あの頃のクーガを復刻してもらえたらどんなにうれしいだろう。もちろん床の間の飾りにするのでなく、あくまで実用に使いたい。デジタル選曲のラジオには実は内部ノイズがある。携帯電話やパソコンをラジオに近づけると強烈なノイズが入るが、実はデジタル選曲のラジオも内部にデジタル特有のノイズ源を持っている。もちろんメーカーではその対策はしているのだろうが、ダイヤルを回して選曲するアナログ方式にはもともとそうしたノイズがない。アナログラジオの音は馬鹿にできないのである。

もしアナログ方式のラジオをどうしても今のうちに買っておきたいという人は、ナショナルのRF-U150(写真左下。オープンプライス)がいい。もう少し大きくさらに優れた性能なら、シンセサイザー方式ながら音質が良いナショナルのRF-U99(写真右下。¥19,800)にとどめをさす。これなら高感度かつ豊かな音質が楽しめるだろう。現場で作業しながら聞くなんて贅沢だがいいかもしれない。

さて、ソニーのラジオの話題に戻そう。もともとソニーはその前身の東京通信工業の時代から通信機やトランジスタラジオで売り出したメーカー。いわばソニーにとってお家芸。子どもの頃、欲しいクーガが買えなかったぼくは社会人になって、ソニーでもっとも性能の良いといわれたICF2001Dを買った。日本で製造中止になってからも人気は高く、今でも北米で生産されていて20世紀を代表する名機という人もいる。

このラジオはシンセサイザーによるデジタル機だが、ダイアルを回してアナログチューニングができるし、もちろんテンキーで周波数を打ち込むこともできる。性能面では同期検波回路がいい。短波放送は電波が混信することが多いが、同期検波をオンにしてダイヤルを正規の周波数から上下のどちらかにずらすと、混信やビートノイズがぴたっと止む。それはまるで魔法のよう。一度でもその威力を知ると同期検波回路から抜け出せなくなる。

もしこれから海外放送を聞いてみたいと思う人があれば、とりあえず家の倉庫か実家に家族が使っていたBCLラジオがないかを探してみる。どうしても新しいラジオを買うのなら、4万円前後と少し高いけれど、ソニーのICF7600GR(写真左下)をおすすめしておこう。小型だが2001年の新製品で伝統の7600シリーズが行き着いた完成型で欧米でも評価は高い(ただし欧米では200ドル以内で買えるので日本の4万円弱という価格設定は高いと思う)。この価格で同期検波を搭載し受信性能はよく音質も長時間聞いていられる良質のもの。周波数を100個登録できるので、予め聞きたい放送局、プログラムが決まっている人は現時点で最良の選択だろう。どんな時間にどんな周波数でどんな放送をやっているかはインターネットで検索しよう。検索語は「短波ラジオ」「BCL」「海外放送」などで複数検索すればいい。


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