技術にも自治がある〜生きる筋の確かさ、感じる心のみずみずしさ 「技術にも自治がある」/大熊孝著 知人の書いた書籍の紹介である。大熊孝さんは、新潟大学の教授で河川工学が専門である。 出会いは1994年に遡る。筑紫哲也、本多勝一、近藤正臣らパネリスト陣の一人として、フォーラムを開いたことがきっかけだ。このときの模様は、実は一冊の本となっている。山と渓谷社から発刊されている「未来の川のほとりにて」。ぼくも編集に関わった。 さて「技術にも自治がある」に話を戻そう。この本には、「治水技術の伝統と近代」という副題が付いている。しかし技術の解説というよりも、人と川との関係という社会面に焦点を当て、随所に大熊先生の定義やキーワードを散りばめられている。わくわくしながら読んでしまった。 大熊先生の川の定義はこうだ。「地球における物質循環の重要な担い手であるとともに、人とって身近な自然で、恵みと災害という矛盾のなかにゆっくりと時間をかけて、地域文化を育んできた存在である」。 人と自然の関係は、矛盾を抱えながらもうまく付き合っていく。現実を見据え、人と自然との関係性から未来を説く。河川工学というよりは哲学、理念であるのだけれど、心なごむ。 大熊先生は遊び心と真剣勝負でこの本を書かれたのではないかと思われる。随所に散りばめられた箴言は決して押しつけがましくない。でもそんなゆとり、余裕の背後に、これを伝えるのが使命という気根を感じる。 仕事で疲れたときにはこんな本を読みたい。財務や情報発信? それも大切だけれど、ときどきは人生を貫く筋を確認したい。この本には、仕事で川と関わりながらも、ときに建設省(国交省)にも鋭く踏み込むなど、良心をかけた骨太の生き方がある。と同時にやわらかい感性がある。理念のない人生なんて楽しくない。感性がふくらまない生き方なんてつまらない。 山と人の未来形を描いた「森にかよう道 知床から屋久島まで」(内山節著)も一読してみては? ▲戻る |
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