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畠山美由紀を聴いていると、なぜわくわくして豊かにふくらんでいくのだろう?:
畠山美由紀「Wild and Gentle」
音楽は心の安らぎに欠かせない。BGMというよりも、じっくり向かいあいたい。このところ、生活から離れられないアーティストと音楽がある。
畠山美由紀さんは、女性ヴォーカリストで、自ら英語歌/日本語詩の作詞、作曲も手がける。知らない人に彼女の英語詩の曲を聞かせたら、「ノラ・ジョーンズ?」と聞かれた。
ドラマや映画で出てくる場面のようなイメージが浮かぶ濃厚な詩、しっとりと、そして憧れを込めて歌われる声。意識的に抑えられているけれど、立ちこめる情感の魅力。低く抑えた声が夢幻と現実を漂い、生楽器の伴奏が有機的にからみ、終わりのないモードで音楽に浸っていたいと思わせる。
知人の女性がラジオで聞いて良かったと感想を述べていたのがきっかけで、畠山美由紀のアルバムを4枚買ってみた(ソロもユニットもある)。そのときの気分で選んでいるけれど、もっとも豊かな気分にさせるのが「Wild and Gentle」(これがいちばん好き)。クルマの運転には「Too much complain」、昼寝しながら聴くのなら「リフレクション」かな。
アルバムの出だし「How to heal」からけだるい世界に巻き込まれるけれど、退廃的な匂いはしない。生きているとつらいことがあるけど、しっかり向かいあって受け止めていこうよの精神が彼女の音楽の底流にあるような気がする。
2曲目の「眠ってしまいたい」もそう。英語詩と日本語詩の作品が混在しているけれど、そのスイッチは違和感なく切り替わる。英語詩のときのほうが歌詞の照れがないせいか、より濃く感じられるけれど、ぼくは日本語詩の曲のほうが好きだ。
アルバムの白眉は3曲目の「罌粟」(けし)。弦楽多重奏に導かれ、「毒薬だね あなたとの恋は」と歌われると、どんな歌の世界が展開するのかわくわくする。たゆたう心の動きに合わせて調性(コード)がぴたりと寄り添う。でも、魔法を信じたくなるような出会いを経験してしまった伴奏、歌詞、旋律、歌唱が有機的に溶け合って、まばゆくふくらんでいく。魂が高く遠くはばたく心地がする。なんという豊かな時間なんだろう。
4曲目「花は散り、雲は行く」では、ためいきのように切々と訴える声に、チェロのような低弦がからみあい、幼い頃に食べたキャラメルの甘く切ない。
5曲目は淡々と歌われるけど、その歌詞は「あなたの舌と私の舌が溶けて なけなしの理性が 真っ白に消去される」。
アルバムでPOPの躍動感があるのは「海が欲しいのに」。窓を開けて海辺を運転したくなる。そのあと英語詩の3曲続いて、いよいよ最後に近づいてきた。
「あなたの街へ」が描き出す胸をかきむしられるような美しい記憶。若い頃、心を弾ませて通った恋人の住むまち。トンネルをひとつ越える度にあなたに近づく事ができたのに、いまでは、あなたを待ちながら眺めていた小川が見つけられない…。音の余韻が部屋をかけめぐりながら消えていくようで。
そして、名曲と呼びたい「真夏の湿原」で締めくくられる。北の大地の湿原を走る列車の旅に揺られ、真夏の湿原をかけてみたくなるけれど,伴奏は旅はまだ続いているといわんばかりにコードを未解決のまま終わらせる。
畠山美由紀の音楽には、無邪気さ、切なさ、情熱、郷愁もあるけれど、どこまでも人生肯定的に受け止められるところがいい。いまをひたむきに生きているから夢や希望を紡いでいける―。そう思いませんか?
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