雨のなかの誰も知らない見送り〜365日の地道が感動を呼ぶ
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海部町商工会女性部による、郡内の観光施設を視察して回るという企画に同行した。 北の由岐町、日和佐町、牟岐町(以上の3町は合併して美海町となる予定)、海南町、海部町、宍喰町(以上が合併して海陽町となる予定)の6町の観光施設が対象。 この日、二箇所目となる日和佐町のウミガメ博物館を訪れたときのこと。 応対いただいた館内のスタッフは、参加者の興味を引きそうな話題を簡潔にしかも的確に伝えていく。説明板を読めばわかることだけれど、人の言葉は、声の抑揚や表現という手段を通じて「伝えたい」気持ちを音声で感情に入ってくる。ましてそれが専門家であれば。それに対して文字情報は一様であるから心に響かない。文献を読むよりは講演を聞けということになる。 短時間という制約のなか、満足感を残して30名の参加者はバスに乗り込んだ。小雨が降っているが、説明していただいたスタッフは外に出て見送ってくれている。大型バスは小回りがきかないので来た道をバックで引き返す。約百メートルほど引き返した。見送るスタッフの姿は雨にぼやけて米粒ほどになっている。ここでバスは左折に入った。そのときスタッフは深々と一礼をした。バスに乗車しているほかの参加者は誰も気付いていない。 ぼくは感動した。こういう公営施設といえば、マンネリ化した展示、読む気にさせない冗長な説明文、手入れの行き届いていない清掃、笑顔のないスタッフなどおもてなしとは無縁の場所というイメージがあった。だから以前に来たときには印象には残らなかった。 印象に残らなければ、再び行こうと思わない。 印象に残らなければ、思い出すこともない。 印象に残らなければ、「行ってみたら」と口コミすることはない。 仏に魂を入れるのはひと、感動を呼び起こすのは、施設ではなくひと ぼくは町営施設だと思い、インターネットで日和佐町役場のホームページを調べてメールを送った。あのようなスタッフにこそ、光を当ててあげたいと思った(どこか自分自身に重なるような気がして)。小さな感動の積み重ねが海部郡を、この国をいきいきとさせる。 大切なのは「伝えたい」気持ち。メールでのやりとりを公開してみようと思う。 ◇「カレッタのスタッフに感心しました」 (11月7日1時34分送信 平井→日和佐町企画観光課) 11月6日に、海部郡商工会女性部による海部郡内の施設視察に同行した平井吉信と申します。日頃は、海部交流推進会議等でお世話になっております。 当日は、日和佐町商工会、友久氏の企画により、六町の主な施設を見学して回るというものです。 その際にカレッタにおいて、ご案内いただいたスタッフの方の対応がよかったのでご連絡したものです。お名前を失念しましたが、写真を添付します。限られた時間でしたが、わかりやすく的確な説明で商工会女性部の人たちの反応も「わかりやすい」と好評でした。 そして小雨の中、バスを見送っていただいていたのですが、なんとバスが「白い灯台」への分岐まで後退するまでずっと見送っておられました。そして白い灯台へとハンドル切る瞬間に深々と礼をされました。 バスからの距離は100メートルぐらいで、そのことに気付いたのはバスのなかではぼくだけでしたが、こうしたスタッフのお気持ちを察して、町にお伝えしておこうとご連絡しました。 観光や経済の活性化といえば、ハコものや道路ばかりに目が行きがちですが、実は大切なのはこうした目に見えない人のおもてなしです。馬路村農協があれだけの発展をしたのも顧客コミュニケーション戦略が秀逸であったからでしょう。このように365日同じような地道な作業のなかにこそ、真実の品質やおもてなしの心が宿り、経営革新となるのです。 日和佐町とウミガメ博物館のご発展、そしてご案内いただいた方のご健勝をお祈りいたします。 (署名省略) ◇「日和佐ウミガメ博物館の岡本と申します」 11月8日15時20分受信 日和佐ウミガメ博物館の岡本館長→平井 こんにちは。日和佐うみがめ博物館の岡本と申します。 昨日、役場企画観光課から平井様のメールを転送してもらいました。 「気持ち」をおわかりいただける方がいらっしゃると、ありがたく、うれしい気持ちで読ませていただきました。写真まで添付していただきまして、本当にありがとうございます。 私は平成14年4月の異動で、役場からこのうみがめ博物館にかわってきました。恥ずかしながら、一応役職名は館長です。 実は、ここに異動してきてすぐに大変な危機感を持ちました。 といいますのは、私の頭の中にあったお客様をお迎えする施設のイメージとは大きくかけ離れており(応接、施設清掃・管理面等全てにおいて)、以来、職員の『お客様をお迎えする上での心構えの基準値』を引き上げることに力を入れるために、自ら率先して行動してきました。 いくら設備に金をかけた施設でも、お客様をお迎えする「もてなし」の意識のレベルが低ければ、お客様の心にはあまり残ることは無いと思います。まして、地方の規模の小さな施設ではなおさらです。 そこで、いかに心地よく、「良かったね」と暖かい気持ちで帰っていただけるような、おもてなしを心がけることが、一番重要な事であると考えています。 また、最近の社会情勢では今後大きな設備投資をして、新たなお客様を誘致することはなかなか困難なことでもあるとも考えます。 設備投資にはお金がかかりますが、もてなしの心は、職員の気持ちの持ちよう(持たせよう)で、どんどんグレードアップしていけると思います。お金をかけなくても出来て、その効果はとても大きいものであると思っています。 とはいうものの、今まで私の考えは「なんでそんな細かいところまで・・・」というように受け止められており、「人をお迎えする上で、これ以上しすぎるということはない」と、いくら話しても、あまり説得力がありませんでしたが、今回、平井様からこのようなメールをいただき、昨日早速、黄門様の印籠のようにしてメールを職員に見せて「より良い博物館とするよう努力しよう。」と話をしました。 近年の入館者の減少傾向はなかなかくい止める事は出来ませんが、いつかきっとお客さまにわかっていただける時が来ると確信しながら、今後も、現状に満足することなく、常にもっと良くする方法は無いか?を考えながら、博物館の存在価値を高めて行きたいと考えております。 民間の事業者様から比べるとまだまだ危機感が希薄な公共施設でありますので、何かお気付きの点がございましたら、今後ともご指導の程よろしくお願い申し上げます。 ありがとうございました。 日和佐うみがめ博物館 岡本照彦 館長さんのメールを勝手にインターネットに掲載しましたが、スタッフのみなさまへのエールとして送らせていただきました。日和佐を訪れたら、ウミガメ博物館をぜひ訪問してみてください。世界でここだけというユニークな展示があります。もしかしたら、館長さんに会えるかもしれませんよ。 ▲戻る |