コーヒー豆が笑う
お湯を注ぐとき、コーヒーが笑ったなと思えたら、
うまいコーヒーが立てられている。
香り、こくがあり、酸味を抑えた味わい。

湯を注ぐとき、
土に水がしみこむように、コーヒー豆が「はい、はい、はい」と手を挙げる。
そこへ注いでやると、
あ〜うれしいと全身で喜びをぱちぱちと表現する。
あ、笑ったな、という瞬間である。

同じ豆、同じ水、同じ温度の湯を使っても、
立てる人によって味わいがまったく異なる。
コーヒーを上機嫌にしてあげると、自分を喜ばせてくれる。
観察すれば自然にわかる。
それを直感でぱっと掴む。

言葉を選んでいるけれど、コーヒー豆が笑っているとしかいいようがない。
コーヒー豆を笑わせることが楽しみになってくると、
コーヒーを入れることが楽しみとなり、
コーヒーの顔色を見ることが日課となる。
きょうはどんな答え(風味)を返してくるんだろう。

ささいなことだけれど、
そんな小さな発見の積み重ねが「ゆたか」をつくりあげていく。
365日×80年の「ゆたか」を貯えられる人、
365日×80年の「無感動」を重ねていく人。
豊かさの定義はひとつではないけれど。


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