思いをかたちに。寒茶物語夏の盛りに咽で味わう飲み物はお盆を過ぎても30度℃を越えている昨今、冷房を使わないと決めている自宅兼仕事場で涼感を演出するのは、 京扇子と涼やかな飲み物。 それは「かんちゃ(寒茶)」。 ゴクンという音が咽で鳴るとき、すうっと別世界に連れ去らされる。 滋味と渋みが溶け合ったまろやかさ、 それでいてすっきりとした清涼感。 脂っこい料理を食べたあと、 身体が水分を欲しがるときに咽に差し入れてやるとたまらない。 緑茶や麦茶にはない寒茶のすっきり感はウーロン茶のそれに近い。 子どもの頃から飲んでいる人は「身体にやさしい」という。 そういえば、イオン系飲料水のように身体に吸い込まれる感覚がある。 咽を潤したあと、舌にかすかに残る渋みがたまらない。 ひとことでいえば「飲みごこちさっぱり」なのだ。 寒茶の里の風景寒茶(かんちゃ)は、徳島県最南端の旧宍喰町の山間部にある 久尾・船津地区で古くから生産されている。 せみしぐれでむせかえる野根川の夏。ダムのない清流の川底は生きていてアユが踊る。 湿潤な森に降る雨を集めた野根川の清冽な水が棚田や生け垣のある家が点在する集落を縫って流れる。 この山里には、入道雲、ミンミンゼミが似合う。 夕方、谷間に響くのはヒグラシの声。 日本から消えようとしている南国の山村の風情がある。 夏の里山に現れた小宇宙で山の気にじーんと包まれて声も出ない。 ここはケータイ電話もつながらない。 寒茶の名は、真冬の一番寒い時季に摘まれることに由来する。 夏が過ぎ、秋が過ぎ、葉が養分をたっぶり貯め込む。 そうして新年を迎えるあたりでやっと摘み取る。 だから、“日本で一番早い茶摘みの里”と呼ばれる。 寒茶生産部会の女性たち(撮影 日比光則さん) 寒茶の生産部会は女性ばかりでおよそ二十名。最高齢者は大正六年生まれで九十歳を越えるが、 みな肌もつやつやで若々しい。まだまだ現役の農家である。 茶畑は山にある。 女性たちは真冬の寒の時季に白い息を吐きながら急峻な斜面を登り、 茶葉を一枚ずつ手摘みする。 集めた茶葉を蒸し器に移して半時ばかり蒸しあげる。
取り出した茶葉は熱を冷ましながら粗もみし、 葉っぱの感触を確かめつつ布を手洗いするように、 やさしく、やさしく揉んでいく。 「ほんに寒い時期の作業やけんど、 おいしい寒茶がでけたらええなと思うてつくんりょんでよ」 と生産者。 寒茶は気取った茶ではなく、 農作業の合間にごくごくと飲む「くらしの茶」である。 「身体にやさしい」理由は、 カフェインやタンニンがほとんど含まれないとされるからだろう。 コーヒーを空腹時に飲むと体調を崩す人がいるが、 カフェインに弱い人、子ども、妊婦、高齢者でも安心して飲めるのではないか。 野ねずみがつくる茶畑茶の木には蔓がからみつき、夏の下草刈りは大変な作業だが、農薬は使わない。 だから、ゼンマイやミョウガなどの山菜が茶畑の斜面に生えてくる。 鹿やイノシシが出るのは当然だが、 ここの茶畑は野ねずみがつくるという。 野ねずみは、秋から冬にかけてたくさんの茶の実を集めるが、 どこにしまったかを忘れて、 それが予期せぬ場所から芽を出すらしい。 野ねずみの働きで、茶が自生している場所が少しずつ増えていく。 野ねずみの働きについてさらに詳しく知りたい方は → がけっぷち海岸の寒茶のWebサイト 「思い」をかたちに寒茶はすでに「茶葉」として販売されているが、ある生産者のひとこと 「若い人たちにもっと寒茶を知って欲しい、伝統の風味を味わって欲しい」 がきっかけとなり、寒茶をペットボトル飲料にするプロジェクトが動き出した。 年々高齢化が進む集落で 寒茶を誇りに思い守ってきた彼女の思いを受け止めたのは、 海部郡の産業興しを実践する有志「がけっぷち隊」である。 がけっぷち隊(隊長 道の駅日和佐 森本長生駅長)は、 県、商工会の支援のもと、 やる気のある民間有志が連携して、 海部郡の未来をみんなの手でつくりだそうと 「がけっぷち海岸」という理念のもと、精力的に活動している。 有志は、毎回深夜に及ぶミーティングを 一年以上積み重ねて商品企画、試作、デザイン公募などを手がけ、 2009年7月に海陽町商工会が販売元となって、商品化が実現した。 寒茶販売に先立ち、7月のとある日、ささやかなお披露目会を開いた。最優秀賞デザインに選ばれた森麻衣子さんも招かれて寒茶部会の女性たちと記念撮影。マスコミの取材を受けながら感極まった生産者も。(撮影 日比光則さん) なお、寒茶ペットボトルのラベルデザイン公募で最優秀賞に選ばれたのは、徳島市内に住む十九歳の女子学生の作品であった。 若い人たちに寒茶を…の生産者の思いが若い彼女に届いたのかもしれない。 議論を積み重ねて設定したペットボトルの仕様は 女性が飲みやすい280ml、価格は210円である。 高いと思う人もあるだろうが、 これで山里の女性たちにエールをおくることができる。 テイクアウトのコーヒー店で300円を払って学生がラテを注文する時代である。 いまの贅沢ってこんなことかもしれないと思う。 よく冷えた夏の寒茶。 それは「思い」から生まれたお茶。 それをつくったひとに思いをはせながら、 心がつながる至福のひとときが訪れる。 個人的な感想では… 寒茶が初めてペットボトルになった2009年初ロットは、 【補足情報】 (1) 寒茶の販売先◆徳島市内
(2) 施設割引先ペットボトル提示で海部郡内の施設の割引サービスが受けられます(2010年3月末まで)
(3) 2009年製造本数
*寒茶の購入等についてのお問い合せは、 海陽町商工会 (0884-73-0350) となっています。 ▲戻る |
|||
Copyright(c) Soratoumi, All rights reserved | |||