二十一世紀の広島 三月二日、広島県農業技術センター主催による、農業改良普及員の職員の研修会にお招きを受け、瀬戸大橋をわたり新幹線を乗り継いで東広島市にやってきた。研修テーマは、農業の経営管理とマーケティングについて。これまで四国、徳島で農家や農業経営法人と接してきた実践から得た経験を共有できればいいなと思った。 三次(みよし)を始め、広島県下一円から集まって来られた普及員のみなさんは研究熱心で活発な質疑が行われた。このような機会を与えていただいた広島県農業技術センターの香川さんに感謝するとともに、広島県の農業のご発展をお祈りしたい。 さて、広島は何度か来たことがあるけれど、未だに平和記念資料館へは行ったことがない。たまたま時間の関係で閉館しているときばかりだった。この日、研修会が終わったのが16時前。JR在来線の八本松駅までお送りいだたき、さっそく市内へ入った。 広島駅に着いて時計を見ると、16時半。この時点で資料館は閉館していると思ったけれど、かつてNHKで放映された「夏服の少女」という実写とアニメで構成されたドキュメンタリーが記憶に残る。ほかは飛ばしても平和記念公園だけは行きたかったので電車に乗り込み原爆ドーム前で降りた。 すでに夕刻に差し掛かっているが、人の群れは絶えることはない。閃光が走ったあの日から六十年。世界文化遺産に指定された原爆ドームは、携帯電話を縦に構えてボタンを押す人たちが群がるスポットとなっている。シャッターを押す人たちの多くは、「広島にいる」証拠を取り終えると立ち去る。映像のメモリーから、人の記憶から消されてしまうのだろうか。 いや、そんなことはないだろう。公園の空気はすがすがしい。それは、居心地のいい神社にも似た凛とした雰囲気がある。疲れたとき、広島記念平和公園に来ると励まされるような気さえする。 慰霊碑の前に立つ。「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませぬから」の石碑。石室には原爆で亡くなった22万人の名簿が収められている。戦争に正義などない。被害者も加害者も等しく平和へ向かうという決意を込めたものだろう。そして炎の向こうに原爆ドームがゆらゆら見える。 それは、現代都市広島のなかにあるオアシス。悲惨な戦争の跡形を伝えながらも人がそれを乗り越えていこうとする清らかで強い意志を感じる。おだやかな気持ちでここにいられる21世紀。しかし繰り返さないと誓った過ちは、すぐそこに深淵を空けているかもしれない。 電車の停留所へと足早に急ぐ。まもなく沈もうとする冬の陽射しが原爆ドームを正面から照らしていた。 (2004年3月2日) ▲戻る |
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