ヒグラシはなんて鳴く?
夕方、川沿いの林からヒグラシの鳴き声が聞こえてくると、考え事をしていた頭から言葉の羅列が消えていく。

小さい頃はヒグラシの声を聞いても何も感じなかった。でも、海部川へ通うようになって夕方訪れる川の時間に身体を預けることを知ってから、ヒグラシの声を聞けば、川の黄昏が思い出される。

自然界の音をカタカナに表したいと思う。小説「空と海」には随所に書いているのだけれど、例えば、せせらぎはヤ行の音。波打ち際の音は、どんびしゃと表現できたと思っている(実際にどのように表現しているか、「空と海」を読んでみるのもいいかもしれません)。

音楽を勉強している人のなかには絶対音感があって、音楽を聴くと無意識のうちに音符に翻訳してしまう。これは便利なようで、実は意識しないと音符が頭に出てきて音楽そのものを楽しめないこともあるという(絶対音感を持つ人の悩みですね)。

ソニーが世界に誇れる名機ウォークマンプロWM-D6Cというカセット録音機がある。発売後20年近くなると思うけれど、未だに継続して生産されているらしい。これにワンポイントステレオマイクで録音すると、あたかも目の前に実物そのもののような音像が結ばれる。残念ながら、最近ではいいカセットテープがほとんど手に入らなくなった。TDKのAD(ノーマルポジション用)、SA(ハイポジション用)。マクセルのXL-1とXL-2。ソニーのHF-Xなどはもう生産中止になっているのだろう。

手軽に音を持ち帰るのなら、万年筆とノートを持って、カタカナに記して閉じこめればいい。

実はここ数年すっきりしない音がある。図鑑では、ヒグラシは「カナカナ」と鳴くと書いてあるけれど、どう聞いても「カナカナ」とは聞こえない。「ジチジチジチジチ」と鳴きながら、フレーズの終わりは息継ぎするように音程をやや下げて伸ばしているようにぼくは感じる。それを言葉と音程とリズムで擬似的に表現しようとしても、ぼくの感性では表現しきれない。

もしかして、音、光、色、匂いは少しずつひとによって捉え方が異なっているのではないのだろうか。例えば、「赤」を言葉で伝えるならどう伝える? 伝える前にあなたは「赤をどのように感じる?」。

あなたにとって、ヒグラシの鳴き声はどんな音に聞こえていますか?

→ 四万十市 杓子峠のヒグラシの声を聴く(録音 オリンパスICレコーダーDS-50 wma形式

▲戻る