春告げ鳥/山崎ともみ

 春告げ鳥が 野山で鳴いて
 きらきら 雪解け水が
 小川に 注ぐ

 その歌は魂がこもっていました。移動中の車のラジオからニュースを聞こうとNHKにダイアルを合わせたときです。中国の胡弓の前奏に乗ってしずしずと拡がっていくと、春を待つ清冽なまでの娘心が歌い出されました。

 恋をしました 好きな人がいます
 母さんに まだ内緒です
 母さんに まだ内緒です
 
何気なく耳に飛び込んできたその曲に、ハンドルを握る手が止まりました。日本の言葉を慈しむように胸に抱きしめて歌っている---この国にまだこんな歌をうたえる人がいたんだ…歌の切なさに恍惚とした幸福感さえ感じていました。

 短い夏が 駆け抜けて行き
 木の葉が 色づく頃に
 告白します
 おんなじ苦労 させたくないからと
 母さんに叱られるけど
 母さんに叱られるけど
 
 初めて恋をしたときのみずみずしい気持ちと切なさをそのまま閉じこめてしまった…。なんという歌なんだろう! 演歌とフォークの中間のような曲です。それもそのはず、永井龍雲の作品です。

 夢を見ました 子供の手を引いて
 母さんと 港にいます
 母さんと 港にいます
 大漁旗の 船で肩組む
 父さんと あの人が

 気になってインターネットで調べてみると、岩手県出身で歌手3年目の27歳の女性だとわかりました。高校を卒業と同時に上京し市川昭介門下生となり、5年のレッスンを続けて1997年にデビュー。漁師の父に新しい船を買ってあげるのが彼女の願いでしたが、その父は船上で病に倒れてそのまま帰らぬ人となりました。

 小柄だけどしっかりした考え方の女性なのでしょう。そんな事情は知らなくても、亡き父へ寄せる思いの深さが無垢なまま飛び込んできたのです。この曲を聴いて心を動かされないような人とはともに生きていけない…そこまで思えました。西暦二千年10月に発売されたばかりの新曲です。

 同じ年齢で大きな夢にかけた徳島のある女性のことを思い出しました。


春告鳥」は、歌手の山崎ともみさんが1997年に発売したシングル曲です。


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