勝浦川流域ネットワーク〜森と海と人と

 勝浦川流域ネットワークの発足に駆けつけた気仙沼の漁師畠山重篤さんは、その著書『森は海の恋人』で全国に知られるようになった人である。森に樹を植えようという畠山さんの呼びかけに対し、素直に共感し行動したのは子どもたちであったという。 
    
 漁師が山に樹を植えるのには理由があった。気仙沼湾の生産力の九割を支えていたのは、そこに流れ込む大川が運ぶ、広葉樹の森に含まれる物質であり、それが海のプランクトンを育んでいたのだ。

 今年で十年目を迎えた植樹活動は、ますます広がりを見せている。地域の活性化と環境保全が密接に結びつき、生活感を伴って実践されているからであろう。

 「一度四国に来たかったの」と言葉を選んでおだやかに語る熊谷龍子さんは、晴耕雨読の生活をしながら歌を紡がれる歌人である。海は森を森は海を恋いながら悠久よりの愛紡ぎゆく、という彼女の歌からこぼれおちた柞(ははそ)の森のしずく…それが「森は海の恋人」なのだという。 

 流域がひとつになって、自分たちの生活を足元から見つめる時、森と海を結ぶ川の存在に気づく。健やかな川の営みを尊重して生きることを未来の子どもたちに伝えていきたい。   

(1998年2月)