増水した日和佐川 「くじら岩」と「ひそやかな潜水橋」
(どちらの名称も通称です。公式名称はありません)
日和佐川は、あっという間に中流となり、気が付けば上流になる小さな川。海南町への仕事の帰りに、打越寺付近で国道から右折して日和佐川へ立ち寄った。
季節はずれの台風がいくつかやってきた六月。昨日もまとまった雨が降った。那賀川は増水して河原が水没しかけていた。日和佐川も多少は増水していたが、濁りはまったくなかった。
くじら岩まで降りていく小径は草が繁っているので、夏場はマムシに注意。自然がつくりだした庭園はいつ来ても静寂のなかで活気づく。瀬が巨岩に当たり、その水流が淵をつくり、淵のなかに浮かぶ。 上流には、山からの沢が滝となって落ち、下流は、両岸に豊かな河畔林の植生に囲まれて人に干渉されずに流れ下っていく風情。そして大きな岩と適度な砂地の小さな河原を配した絶妙の配置。静かな川の時間に浸れる。
  
観光案内パンフレットにはこの全長16キロの小さな川は紹介されていない。日和佐町といえば、ウミガメと薬王寺がイメージだけれど、南阿波サンラインに落ちる沢や数々の渚は、太平洋と照葉樹の濃厚な雰囲気に包まれている。
くじら岩周辺は、癒される場所だ。そのひっそりとした雰囲気がいい。看板がなく道路からも離れているから、県外から来た人が見つけだすのは至難の技。見つけたら喜びはひとしおだろう。
くじら岩が見つかれば、「ひそやかな潜水橋」もすぐに見つかるだろう。これとてクルマで通り過ぎると、見逃してしまいそうな分岐である。 ひそやかな潜水橋は、対岸にある数戸が生活のため利用する橋である。その道と潜水橋は、国土地理院の5万分の一地形図にも記されていない。
  
潜水橋は、ご存知のように、大雨になれば水に潜る橋である。だから、大雨のときはこの集落は孤立することになる。 しかし架橋コストが安く、洪水の妨げにならず、人や自転車にとっては、最短距離を渡れるという利点がある。コンクリートでありながら、不思議と川の景観に調和している。安藤忠雄の建築みたいだ。
上流を見ても、下流を見ても、人家は見えない。まるでここだけが切り離された世界のよう。それゆえに、たたずんでみたくなる。河原の石に腰掛けて、流れを見ているだけでいい。 ときおり、笹舟を流してみてその行方を追ってもいい。無目的な時間を過ごす喜び。だから、日和佐川のくじら岩とひそやかな潜水橋が好きなんだ。
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