穴吹川-最後の漁法を守り続ける人〜知野集落の緒方さんの365日川物語

穴吹川で知野集落にお住まいの緒方さんは齢八十を過ぎてなお、毎日川へ出かける。河原には、太い竹を組み上げた屋根付きの休憩所がある。夏は日除けとなり、冬は風よけとなり、春と秋は風を楽しむ。獲物が捕れた頃を見計らって緒方さんのやぐらには友人がやって来て酒を飲む。

緒方さんの道具は、大人の身長ほどもある竹を編んだカゴ。下流側の竹を束ねると筒状にすぼまる。上流に向けて広い開口部を置く。入り口をくぐると、今度はなかなか出られない構造である。カゴに入るのは、川の珍味モクズガニである。

モクズガニは、上流から海へ向けて下っていく習性がある。訪れた9月中旬は、そろそろ下流へ下り始める時期なのかもしれない。

三日ぶりに上げたカゴを覗かせてもらうと、モクズガニが1尾入っていた。

緒方さんは、奥さんとともに暮らしている。三人の子どもは県外で住んでいるというが、たまの休みに孫たちや友人連れで大勢押し掛ける。もてなすのが大変だが、実はそれが楽しみ。みんな川で遊ぶ。

清流といわれる穴吹川だが、緒方さんは「昔はもっとよかった。その原因は、家庭の生活排水だ。昔は油汚れでも灰で落としていた」という。

しかし高度経済成長とは裏腹に過疎が進み、この辺りの集落も戸数が1/3に減った。それで清流が保たれているのは皮肉である。昔の川の話になると一段と熱がこもる緒方さんであるが、たくさん採れた往時の話のなかで問わず語りに「水をせき止めたら絶対にあかん」と目を大きく開けて話してくれた。

たとえ魚道をつくったとしても、生き物は容易に移動できないし物質の循環もせき止めてしまう。川を見続ける緒方さんにはそのことが肌で実感できるのだろう。穴吹川でこの漁法をやっているのはもはや緒方さんだけである。

この先、口山潜水橋を過ぎ、白人集落を過ぎれば、穴吹川は渓谷の地形となる。緒方さんはきょうも川に出る。

取材日  2002年9月23日
天候   天気曇り時々はれ
状況   9月上旬の大雨の影響は感じられず、水は平常時よりも減水気味。

3日ぶりにカゴを上げてみる。

縛っていた下流側の口をほどく。

なかから出てきたのはモクズガニ。

得意顔の緒方さん。

また元に戻す。

仕掛け全体像。岩で誘導する。

点検のため、ほどく。

そして縛り直す。

よし、これでいける。

流れに沈める。

「どうだ!」。

緒方さんの手製の川小屋。

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