上勝町月ケ谷温泉での新しい試み


いまを語るとき、欠かせない三つの要素がある。成熟化モノあまり社会(心が空虚)、所得減少二極化(多忙)、そして環境問題である。企業活動はこれらの要素を抜きにして語れない。行政では、住民参加(行政参加)、情報公開、予算縮小といったところか。

マーケティングでは生活者の意思を尊重し貴重な時間を奪わないことが当然となる。いまだに迷惑テレマーケティング、迷惑ファクス、迷惑メール、迷惑DMが世の中に散乱している。いわば売上高ありきの無責任経営のなれの果てがマスコミをにぎわしている偽装問題に帰結する。

マーケティングがテクニックになってしまい、数字を並べるだけの経営計画を作成し、心を打たない年頭所感を経営者が述べても半月後には誰も覚えていないというのが一般的な企業の現実だろう。いまこそ企業活動は原点に戻りたい。なるほど人を変えることはできない、人を意図して感動させることは困難であるけれど、自らが変わることはできるし、感動することもできる。それが原点。

人が生きていくには理念がある。企業経営とて同じ。理念のなかで自在にできたらどんなにかすばらしいだろう。競合の様子や法令の変化などは制約条件になるのだろうが、そえゆえにそれを乗り越えて飛翔がある。

前置きが長くなったが、上勝町の月ケ谷温泉で楽しいそうなことが始まろうとしている。それは、地元の女性たちに使われていないまっさらのレストランをお貸しし、昔ながらの田舎料理のみを提供するというもの。「昔の料理を教えてください」というチラシを町内に配布し参加者を募って試食会を開催したところ、好評であった。

そのときに集まったメニューや思い出された昔の料理を抜粋する。

菱餅。ういろう。こえかりもち(白と草餅がある)。柏餅(サンキライの葉)。おみいさん(夏はかぼちゃ。冬はサトイモ、サツマイモなども使った)、地イモのズキ菓子、氷豆腐(通しによあさ10時ぐらいに干す。勝手に凍っている。黒いけどうまい。凍るときにということで正月用にこしらえた)。ヤコメ(ご飯がおいしくなくなるようになったら、お茶でかしとく。農作業が忙しくなる前の6月。塩で味付け)。みそ(小麦を蒸してあぜ豆を混ぜる)。蕎麦(蕎麦米の粉をひいた自家製)きなこ豆のきなこ。五穀モチ(アワ、ヒエ、キビ、タカキビ、コキビ)。コキビのご飯。芭蕉寿司(お盆)。小豆と切り干し芋をたく料理(ほんのりと甘い)。わらびと干し大根をたく。ウドの酢みそ合え。菜めし(だいこん葉。しんこを取って塩だけで炒める)。わさびの葉(湯をかけてしならせる。すしにも使う)。春の七草。秋の七草。しぶくさ、いたどりは、塩をつけておやつ代わり。やまいも(じねんしょ。1月〜2月は灰汁が少ない)。むかごのご飯。あゆ雑炊。きびだんごの吸い物(寒にさらすとうまい)。つぶり麦、よまし麦。

まだまだたくさんあるのだけれど、一部を写真でご覧いただくとして、100%地元で取れる食材のみを使った料理を出すというもの。プロの料理人ならまずはメニューを考え、それに合う食材を集めるが、ここでは食材からメニューを考える。だから昔からつくっているおばさんたちが活躍できる。

上勝のおばさんたちは多忙なのでおそらく昼間だけの営業になる。といってもパートではなく、出来高に応じて売上を分配することになると思う。そのほうが楽しい。自分の創意工夫がひとに喜ばれ、売上が上がり、自分にも還ってくる。

一汁五采を「お膳」に盛りつけて出すとしよう。お膳というのは、ひとり分を載せる膳で昔はそれを使っていた生活の道具である。ときどきは遊山箱に入れるのも楽しい。遊山箱は上勝の杉で地元の大工さんにつくってもらう。もともと生活の道具だから漆塗りなどせずに、杉の生地そのままでいい。必要な人は遊山箱を買ってもらってもいい。

実は、県内で地元の食材を使った料理のみを出すところはほとんど見当たらない。例えば、海部郡にもアンロクの料理をはじめ、昔ながらのおいしい料理や浜節句などの伝統行事があるのだが、それらを提供する飲食店を知らない。

素朴で気取らない粗食は、豪華な会席料理に食べ飽きた飽食の現代人の五臓六腑にしみわたる。しかも地元のばあちゃんの笑顔を添えて。彼女たちは、生活の糧を得るための仕事をしながら昔ながらの食文化を未来に伝え、そのなかに込められた持続的な社会のあり方に向けてのメッセージとなるだろう。

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