提案すること〜価格競争にならないために
提案すること〜価格競争にならないために

 年商数億円の企業の経営者から一人でやっているSOHO事業者まで話を聞いて痛感していることがあります。業績の明暗を分けているのは、提案できているか、いないかということです。
 
 統計的ではない感覚的な数字ですが、提案してそれが受け容れられている経営と、仕様書や要望に忠実に処理するだけの下請体質型の経営では、価格が2〜3割、利益率に至ってはさらに差が開いていることもありえます。

 例えば、講演のテープ起こしという作業では、最低価格とそうでない価格の間に5倍程度の開きがあることも少なくありません。前者は素起こしといってそのまま文章に直すだけ。後者は、文章のなかで発言者の意図をさらに明確にするために加筆修正を行います。

 発言者は無意識のうちに話があっちこっちに飛ぶことがあり、そのうちに当初の趣旨が埋没したり全体の整合性で矛盾をきたしたりします。だから素起こしした素材をさらにリライトする必要があるのですが、そのために費用と時間がさらにかかります。例外があるのは、グループインタビューや犯罪捜査など潜在意識を探る心理分析のときだけです。

 一般的なテープ起こしにおいては、活字となって残ることを想定するので誤りを訂正し、意味不明のふらつきを省き、発言者がうろ覚えの箇所を文献に当たって調べます。発言者の個性を残しながらも文章として残ることを考慮して普遍的な表現に整えるのです。こうして文量を当初の3〜4割程度に圧縮して発言者の意図を忠実に再現し、最後は発言者に最終確認を取ります。これには咀嚼力と高度なバランス感覚、コミュニケーション能力が要求されるのはいうまでもありません。

 こうしてみると、単純作業の前者と後者で価格差以上の開きがあることに気付きます。つまり得られるパフォーマンスとそのために投下される時間とお金を考えれば後者が安いかもしれません。賢明な相手先はそうした状況を判断して後者を選びます。こうして後者は交渉力を持つようになり、価格競争は提案力の前に消えてしまうのです。

 ただしホームページの作成業者にはこの傾向は必ずしも当てはまらないようです。というのも、数千万円をかけたサイトに数十万円のWebサイトが優ることはざらにあります。しかし依頼主は業者の見分け方がわかりません。それは「何のために誰を対象に」Webサイトを構築するかという目的が依頼主に不明確だからともいえるし、コミュニケーションデザインやマーケティングを双方が求めないからともいえます。

 価格決定の主導権を持っている経営はどんな業界にでも存在します。しかし、こんな価格を通している同業者があると言っても信用しない経営者もいます。提案型と受け身型のどちらを選ぶかは自由です。しかし、右肩上がりが期待できない経済状況下ではしっかりと利益を確保する経営が生き残ることは確かであり、そのために提案が欠かせないことは疑う余地はありません。

 提案するとはどういうことなのか、次号以降で事例研究を含めて考えていきましょう。

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