清掃について(2000年5月)

 小売店の皆様にはよくご存じのことで今さら言うまでもないことですが、清掃すると業種に関係なくお客さんが店内に入ってきますね。あれはどうしてでしょう。

 もし、店員さんが店の中央付近に腕を組んで道行く人をじっと見ているとします。お客様は店員=売り込みという概念が無意識のうちに刷り込まれていますから、「ちょっと冷やかし」ができないのです。でも買っていただく際に、最初に「おやっ」と思って店内に入っていただかなければ商売は始まりません。冷やしのつもりが思わず衝動買いすることだってありますし、今回買わなくても「なじみ感」ができれば次回につながります。その第一歩の動機をを損ねないよう、お客様が心理的抵抗なく入れるよう、スタッフはせわしなく動いたり作業をしている必要があるのです。その際に清掃というのが実に自然で、イメージも悪くないからです。

 清掃の利点はもうひとつあります。まず商品の位置がよくわかります。棚傷みも発見しやすくなります。埃が積もった商品=店番している=売れていない=買いたくないの方程式がお客様の頭で展開されますから、商品は光り輝いていなければなりません。もし自分の店なら自分が仕入れた商品を抱いて寝るぐらいが商売人だと思います。清掃と並行して売れ筋商品ベスト10〜30の「指さし点呼」も日々の販売効果(販売数と棚割、レイアウト、天候などとの相関)を確かめるうえで効果的です。

 一工夫すべきは清掃方法です。誘客と商品チェック目的の清掃とは異なる本来、売り場(買い場という言葉もありますが、ここでは売り場と表現します)の清掃についてです。チェーン店なら清掃マニュアルは常識です。しかし店舗の立地によって(埃が多いところや通行客の多いところ、時間帯)、その日の天候によって少しずつ変えてみます。

 普段の清掃のコツは、できるだけ短時間で8割を清掃できる方法を試行錯誤することです。一例として、ほうきで掃いてモップをかけるという行為をひとつに集約することは可能です。モップで掃きながら拭くのですが、掃くというよりも、床に対して均一な力をかけて同じところを通らないようにして、モップに付着したゴミを床に残さないように拭くといった感じです。これによって時間を半分以下に短縮できます。掃除は上から下へ順番にと言われていますが、それは大掃除の時だけで、普段の清掃は、下から上へが自然ではないでしょうか。これは汚れているところから手がけるという法則で最初に大半を済ましておこうという発想です。

 こうすれば、仕事中に商品を磨くといった軽い作業を随時行うことができます。特に人間の思考能力と客足の鈍る午後のひとときは、商品クリーニングに充てると有効に時間を活用できます。こうして多段構えの清掃は、一度にやると大変なので、小刻みに分けながらお客様の反応を伺いながらやれるので一度試みてはいかがでしょうか(その後にいただく「午後の紅茶」が楽しみになりますね)。

 手は汚れますが、水拭きしたあとに新聞紙でガラスを磨くのは窓拭きの定番ですし、テープ跡や静電気汚れには無害無臭のアルコールは万能品。これさえあれば洗剤は要らないぐらいです。業種によっては、汚れのひどい場所にオレンジエースなどの固有名で売られているオレンジから抽出した洗剤が効果的ですが、必要以上に化学薬品に頼らないことが日々の清掃を長続きさせるコツです。

 清潔な店内はお客様をお迎えするにふさわしい舞台です。理屈よりもまず身体を動かしてみて初めて見えてくるものがあります。清掃は奥が深い世界です。