「産直市を考える」



産直市の開設が相次いでいます。背景は3つあると考えます。
(1) 生活者ニーズから
 食品の偽装事件、中国産食品への不安などから安心安全を求める生活者の需要に応え、地元産の安心感や鮮度が良く価格が手頃なことから生活者の支持を得ています。

(2)生産者の視点から
 国産品の需要増から相場が上がることを期待した生産者ですが、現実は出荷価格は上がらず、燃料、資材の高騰で苦しい経営状況です。流通マージンを省いて生活者に届けることを真剣に考え始めています。産直市は「規格外」農産物を販売する場でもあり、味や風味は変わらないけれど「規格」に当てはまらない「訳あり」商品の流通として産直市が利用されている側面も見逃せません。

(3)事業者のリスクが低い
 野菜等は毎日の食卓に欠かせない生活必需品であり、店舗整備に費用がそれほどかからず(既存建物を活用する場合は看板と美装程度で済む場合も)、委託販売では在庫を抱えるリスクが低いことなどから、JAをはじめ、農家グループによる運営、建設業の新分野進出など異業種からの出店が増えつつあります。

 また、商店街の衰退により退店した生鮮食料品の提供機能を補うため、空き店舗対策事業として産直市を設置し、中心市街地のにぎわい回復、都市と山村の交流拠点となることも考えられます。

 このように生活者、生産者、事業者にとってメリットがあることから各地で産直市やスーパー内の地産地消コーナーの充実が相次いでいます。けれど数年後には競争の激化で産直市の淘汰が始まることも予想されます。

 生き残りをかけてやるべきは、理念、方針を明らかにすることです。存在意義、めざしていること、メッセージ、行動規範(すること、しないこと)を顧客に約束ごととして提示します。そして誰にどんな価値を提供するか(=コンセプトを明確にして特色を打ち出す)を突き詰めていきます。

 コンセプトを考える際に、競合する産直市、スーパーの産直コーナーをマトリックスに当てはめて、自社の立ち位置を確認しましょう。マトリックスは、縦軸、横軸に切り口を設定して4つの象限のどこに当てはめて考えることです。

 例えば、地産地消志向と安心安全志向で、ライバルは地産地消、安心安全志向とも「低い」とします。それに対して当社は、地産地消志向は「高い」が、安心安全志向は「低い」とします。
 すると「当社の強みである地産地消を強化しつつ、採算ラインに達したところで安全安心志向を生産者に啓発していく」などの方針が決定されるわけです。現在の自社と競合の立ち位置を整理すれば、未来の利益がどこから来るかが見えてきます。縦軸と横軸の要素としては、「価格志向」「安全志向」「高級志向」「情報提供志向」なども考えられるでしょう。

 ところがほとんどの産直市は、どんな要素で差別化するかが見えないのです。経営理念・方針が掲げられている産直市はあまり見かけません。既存の流通や安心安全への不安から産直市を利用する人たちに向けて、伝えたいメッセージはないのでしょうか?

 例えば農薬使用と聞くだけで敬遠する人もいれば、それほど気にしない人もいます。法令等で定められた基準を守って農薬を使用している農家と、まったく無頓着な農家が混ざっていたとしても買う人は見分けが付きません。
 農薬や化学肥料を使用しているとすれば、なぜ使用するのか、どの程度使用しているのか。生活者に正しい知識を啓発するとともに、農家にも意識改革を促す役割が産直市の経営に求められているのではないでしょうか?

 産直市にはいくつかの経営課題があります。
(1) 鮮度と集荷
 既存の流通では、徳島で採れたものが大都市の市場で競り落とされ、数日後に徳島へ戻ってスーパーの店頭に並ぶこともあります。ところが、朝採れを並べることも可能な産直市の最大の強みは鮮度です。
 鮮度の高い葉物などは調味料を使わずに、さくさくした歯ごたえとうまみを味わえます。ある産直市で50円のネギを買ったときのこと。うどんに使いましたが、香りともに口のなかで噛みしめる濃厚なネギの風味は絶品でした。鮮度を維持しつつ集荷を誰がどのように行うかです。

(2) 端境期と作物の種類
 自然が相手ですから作物があまり並ばない時期があります。地域外(外国も含めて)から仕入れて並べるかどうかです。消費者ニーズからあるからと仕入商品を多く並べる産直市について、経営姿勢を問う生活者の厳しい目があります。
 かといって地産地消だけで経営すると、採算性が悪化することもあります。どこまでの範囲を地産地消とするかも議論です。ただし生活者は安心、安全、鮮度が確保されれば、それほど地産地消にはこだわらないという県内の調査データもあります。

(3) 手数料の設定と買い取り
 販売手数料が高ければ出品者はほかの産直市や流通に流れ商品確保が難しくなります。また安価に設定すれば利益率が低くなるうえ、商品量が増えて手間がかかるため、採算性が厳しくなります。地域の購買特性もあるので手数料率の設定については試行してみないとわかりません。また、相手先ごとに手数料を変える必要があるかもしれません。一般農家、授産施設や農業学校等、加工品を提供する法人等で同じ手数料である必然性は少ないと考えます。

 現在の産直市はまだまだ完成途上であり、改善の余地は大きいと考えます。
  • 何が本質なのか? 本質と関係ないところで競争、過剰になっていることはないか?
  • 大切なことが置き去りになっていないか? もっと掘り下げて考える視点がないか?

 いくつか問題提起をしますと、
「消費者は農薬や安心、安全に関心はあっても具体策は求めていない。田舎のばあちゃんが農産物を持ってにっこりしていればそれで十分」でしょうか?

 品質の規格、認証によってそれらを担保しようとする意見もあります。安心安全を担保するために独自認証、トレーサビリティなどを導入する方向に行くべきなのでしょうか?

 生産者に、目標やわくわく感を与え、所得を増加させることは不可欠です。「産直市で商品を売って旅行に行く」ことは生産者への動機付けとして必要ですが、一方で、生活者の納得性、共感から見て大切なものが抜け落ちていないでしょうか?

 生産から流通、加工、商品企画までムダと虚飾を省くために社内一貫で行う農事生産組合、農業法人のような方向がひとつの理想としても、それが各地域で実現可能な解決策なのでしょうか?

 生活者にとって、産直市は必要な情報やサービスなどの利便性、効用性がきめ細かく満たされているかどうか。例えば、ほんとうにおいしい食べ方や調理法がわからないまま野菜を買われているのではないでしょうか?

 陳列やディスプレイについて、これまでの産直市の常識を覆す手法やヒントがほかの業種の例にあるのではないでしょうか?(鮮度感、量感、可愛らしさ、たくましさの追求など)
 つまり「ほんもの感」の演出ができていないのではないでしょうか?(土が付いているからホンモノなどという中途半端なものではなく)

 産直市は、地産地消をウリにしたいスーパーや熟年者を取り込みたいコンビニなど既存の流通に影響を与えていくことでしょう。
 生産者が運営に参画する、生活者もまた運営に協力する。そんな相互の切磋琢磨を通じて産直市はまだまだ良くなっていく可能性を秘めています。生産者も生活者もともに食育の担い手。参画による気付きが経営の改善やくらしの見直しのきっかけとなることでしょう。

 これらの問題提起を踏まえながら、産直市のあるべき姿を実践を通して深めていきたいところです。

 

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