経営理念と日々の行動

 今回は、経営理念(社是、社訓と呼ばれることも)について考えてみましょう。従業員数人の事業所でも、また個人事業でも経営の拠り所が必要です。経営理念から経営方針、マーケティング戦略などが導かれ、それをいかに日々の行動に落とし込むかが経営の本質といってもいいでしょう。

 まずは、経営理念と人との関係で見ていきましょう。みなさんの会社では次のどれでしょう。
(1)経営理念がない
(2)経営理念はあるが、知らない人も少なくない
(3)朝礼等で唱和しているので知ってはいるが、それがどうしたって感じ(日々の行動とは無関係)
(4)経営理念が社員の日常的な行動の規範として意識されている。

 おそらく(2)か(3)の事例が大半ではないかと思います。しかし経営理念は、未来を照らす道しるべであり、日々の行動規範です。経営者が迷ったときの指針であり、社長の戦略が経営理念にそぐわないときは社員が異議を唱えるぐらいの大切な存在でもあり、取引先や購買先、生活者に向かっての自社のアピールと約束事でもあります。

 経営革新支援法の認定を受けたとある企業では、経営理念についてこんなことを始めました。その社では経営理念がスタッフに浸透していなかったので、朝礼で経営理念について交代でコメントを述べるようにしました。単に唱和するだけでは、経営理念がどのような意味を持ち、どのように日常と関わっているのかを実感できないからです。そのために、身の回りのできごとや世間で起きたことがらに対し、一人ひとりが自社の経営理念に照らしてどう判断するかを述べるようにしました。例えばこんな感じです。

「会社の近くのレストランに昼食を食べに行ったら、料理が運ばれたときに、注文を取ったウェイトレスと別のウェイトレスが来たのに"パスタの方は?"などと聞かずに、きちんと注文した人の前に料理を並べました。あれで会話が途切れることはないし、すごいなと思ってウェイトレスに聞いてみると、お客様の座る席には目に見えない番号があって、それによって管理しているとのことでした。感動は意外性だけど、その意外性はこんな地道な作業の積み重ねにあるんだなと思いました」。
「先日、お客様から○○の品質が悪いというクレームがありました。一度でもクレームを起こすと次からは足が遠のくように思います。品質を高めることが顧客満足度を高めるとともに、会社の利益を確保することにつながることを実感しました」。
「八月は各地で山崩れが相次ぎました。生命の安全を守るには、森を守っていかなければならないことを識者が触れていました。森を守るとは、間伐や枝打ちによって手入れをしていくことだそうです。私たちにとっての森は、施工品質であり、手入れとは、お客様への適切な情報提供ではないでしょうか」。
 ちなみにその企業の経営理念は、以下の通りです。
(1)我々は、顧客と共に感動と満足を持つ
(2)我々は、顧客の生活を風雨から守ることが使命である。
(3)会社の目的は利益を出すことである。利益を出すことで株主・社員・社会に貢献できる。

 ところがこの経営理念では困ることが起きるのです。それはなんでしょうか? じっくりと考えてみてください。そこでこの会社では、時間をかけて経営理念をさらに洗練させ、確固たる拠り所としたいと考えています。会社にとって大切な存在である経営理念です。社長がスタッフを巻き込みながら、どのように経営理念を育てていくのか注目されます。

(追記)
なお、(社)中小企業診断協会徳島県支部では、会員の中村昌宏氏(徳島文理大教授)を委員長に、県内企業の経営理念(社是、社訓)についての調査を始めます。どのような調査を行うかについては中村先生を中心に検討を進めていますが、情報を提供していただいた事業所には、報告書をお分けすることも検討しています。どんな社是、社訓があるのか、それはどのように決められ、どのように活用されているかなどのエピソードも興味深いところです。追って本誌またはWeb上で調査法などをお知らせする予定です。

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