組織とリーダーシップ そして納得性


サービス業のA社は、リニューアル2年目であるが、従業員の心遣いが行き届いていないと顧客からたびたび苦情を受けている。
土木工事業のB社の業績は順調であるが、事故を頻発させるなど社員にたるみがあるのではないか。
製造小売業のC社は、会社で決めた方針が末端まで浸透せず、社員にいくら言っても効果がないと嘆く。
ある第三セクターからは、山間部で人材の確保が難しく、現在の人材のままでは利益を出すのが難しい。トップが非常勤なのも問題だと寄せられる。

なるほど、業種、業態を問わず、中小企業にとって人材育成、動機付けは経営者の最大の悩みである。では、どんなリーダーシップがいいのか。成功事例として全国に知られるようになった事業を展開している知人は「やる気にさせることだ」と即答する。やる気を出させることができれば、自ずと組織はいい方向に動いていくという。

ではどうすればやる気を出させるのか? 「こうすればできるという夢を語り続けることだ」。そう語りかける彼の口調は熱い。トップの熱気は伝線し、それに応えようとする部下が現れる。

では、社内に緊張感がなくぴりっとしない場合は? それは、人心が経営者から離れているからだと彼は答える。人心が離れてしまうリーダーシップといえば、相談を受けた何社かは思い当たる。実はそれが大きな原因だと思う。

人心が離れてしまうリーダーシップとは? 

人は厳しいだけでは付いてこない。しかし厳しい管理で乗り切っている事業所がある。管理を強化して経営を立て直したと言って良い。それは食料品を扱っている事業所だが、若い管理部長が年上のスタッフをびしびし叱る光景を目の当たりにした。相当な反発があったはずだが、ここ数年の会社の決算書の数字の飛翔が結果を物語る。

この会社では、業務を行う大多数のスタッフと、管理する少数の経営陣に分かれている。それぞれの部署の役割を明確にし、ルールをつくりチェックする経営陣と、ルールを守るそれ以外の部署に分化している。権限委譲や創意工夫が重要なことは論を待たないが、それとは対極的に見える管理手法がうまくいくのはどうしてだろう?

以前にも指摘したが、セミナーなどに参加する勉強熱心な経営者は、良いと思ったことを次々と社内に取り入れる傾向があるがうまく行かないことが多い。数字を見ると、同業他社より粗利益率が低い。「顧客満足度をもっと高めよう」「いい管理手法があるのでうちでもやろう」「時代の流れだからぜひ取り入れよう」。そう思ってどんどん良いことを取り入れると、利益率は下がる。本来は良いことをすれば、顧客が増え、売上が増え、利益が増えるはずではないか?(この反省点に立ったのがバランススコアカードの手法である)。

先の食品製造メーカーでは、シンプルなルールを徹底させている。経営管理の軸がぶれないところが高収益につながっている。ルールに従うのがこの会社で働く運命と従業員が悟るぐらいでないと会社の方針は浸透しない。

例えば、食品の衛生確保のためのルールや手続きを誰もがきちんと行うこと。そこにこの会社の利益の源泉があると判断するならば、末端のパートまでがロボットのように正確に動けばそれで可だ。このような組織は非人間的と思われがちだが、パートにとっては労働の対価=報酬であり、「アイデアを出せ」といわれるよりも「これをやるのが仕事」といわれたほうが対価が見えやすい(納得しやすい)。面倒なルールでもそれを守るということが習慣になり、惰性で仕事ができることは楽である。

理由はさらにある。当たり前のことさえできない会社では、良い人材がいても会社を見限ってどんどん流出し、組織のパワーが落ちる一方となる。放漫管理では良い従業員が落ちこぼれ、厳しい管理では悪い従業員が退社する。小さな事業所には緊張感が必要である。

ところが売上が大きくなり、利益を生み出すのが本社管理部門ではなく現場単位になってくると、トップダウンによる単純な指示を現場が守るだけでは利益に結びつかなくなる。だから現場に権限を渡そう、そして創意工夫で利益を生み出してもらおうと考える。そこがうまく機能しないのが大多数の企業のトップの悩みだろう。

実は私自身もこのテーマに対し明確な回答は持ち合わせていない。それでも漠然と感じていることはある。
ひとつは、経営者のリーダーシップ。自分自身がその会社で働いてみたいと思えない会社で従業員に対して「創意工夫せよ、利益を出せ」と号令(トップからであろうとコンサルタントからであろうと)を出されても動きたいとは思わないだろう。楽しくないからイヤイヤ仕事をするとミスが出たり事故が起こったり。顧客の立場に立てなくて苦情が増えることも。そうするとますます仕事が嫌になる。

楽しく仕事をするとは、甘やかせることではない。むしろ試練をともに乗り切ろうと全員の意識に働きかけること、どんなに苦しくともトップは逃げないこと、苦しい顔を見せないこと。そして「あと少しだ。やりきろう。できた。ありがとう」の過程を通してチームワークや達成感が生まれてくる。

苦しいことを乗り越えた、それを自分たちでやりきったという誇りと自信が生きる喜びとなり、組織の士気を高める。だから、創造的な組織や創造的な経営には、人間の魅力(畏敬の念を持ちたくなる人格)を持った経営者がどうしても必要である。

もうひとつは組織の運営。会社の理念、方針が末端まで浸透しているかが利益に直結する。理念を浸透するためには、
  1. 理念や方針がシンプルであること。
  2. それが何を意味し、どんな行動をすれば良いのかについて継続的に発信され、組織の構成員全員が納得していること。
  3. チェックのしくみを持ち、それを機能させていること。
シンプルな理念をシンプルなルールで運営し、誰に対しても(経営者に対しても)不変の基準となっているかどうか。このレベルで脱落する会社は少なくないように思われる。

経営は、厳しい管理がいいのか、甘やかせるのがいいのか。権限委譲(コーチング)がいいのか、統制する(命令)のが良いのかといった二者択一ではない。そこに、好き嫌いを越えた「納得性」があることが必要だ。

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