「買い物難民が見えますか?」


人口減少、モノ余り、格差社会。
これがいまの時代を象徴するキーワードである。
そこから見えてくる戦略は「差別化」が中心となる。

内需拡大が課題といわれても買いたいモノがない。
こんなモノがあればいいなと思ってみても、
それを満たすモノがない「買い物難民」とでも表現しようか。
モノ余りの時代になぜこんなことが起こるのだろうか?

家電品を例に取って考えてみよう。
家電品はどこにでもあふれており、お金さえあれば誰でも買える。

扇風機を探すとしよう。
高級な扇風機はマイコン制御で風がゆらぎ、
薄型で洗練されたデザインだ。
けれど、少し使い込むとガタが出て可動部の動きがぎくしゃくしたり、モーターの音が大きくなったりする。
華奢なプラスチックの本体を適当に組み立て、
そこにコンピューター制御が乗っている感じ。
これでは、たかだか数年で基本性能が劣化して当然かもしれない。

高機能で便利をエサに、
数年で壊れる設計で買い換えを促進することができるのは
メーカーのねらいどおり?

簡単に操作できて、電池の持ちがよく、
操作の楽しみを味わえるラジオが欲しいとする。
チューニングダイヤルの回転がなめらかで
精度の高いバリコンによる選曲ができ、
ディクリート構成のアンプとゆとりのある口径のスピーカーから
中音域が充実した豊かな音を期待したい。
そのようなラジオは1970年代から80年代にかけては存在したが、
技術の進歩した21世紀には見当たらない。

くっきりとしていて、しかも目にやさしいのは、
小さな画面の高解像度ブラウン管だが、
これも市場から姿を消した
(発売当時は15インチで十数万円の価格)。

薄型の代表である液晶テレビはコントラストが高く、
発色も人工的なまでにあざやかだが、
ギラギラしていて長くは見ていられない。
ぼくが使っているブラウン管テレビは購入後10数年が経つが、
いまだに現役である。
けれど壊れたらもう代わりがない。

パソコンのディスプレイでもっとも目にやさしい
15インチのブラックTFT(1024×768)は中古で入手するしかない
(発売当時は十数万円した)。

画質がよく操作感に優れ、耐久性があるビデオデッキが市場から消えて十数年。1980年代に二十万円弱で買った機種をいまも修理しながら使っている。

調理用家電ではほんとうに現場で使ってみたの?
と思える製品が多い。
それらが日本の一部上場企業の高学歴の社員から
生まれることを考えれば、
現在の不況は、格差社会を引き起こした政治とともに、
現場に思いを至らす熱意をなくした一流企業(とその社員)が
引き起こしたといえば言い過ぎか。

家電が三種の神器と呼ばれた高度経済成長期は
成長期の花形産業であったが、
いまや家電はプロダクトライフサイクル
(製品を導入期→成長期→成熟期→衰退期と区分する考え)
の成熟期を過ぎた製品であり,
中国製などの競争にさらされて
コストダウン優先で日の当たらぬ部署になっているかもしれない。

製造拠点は海外に移動した結果、
国内では熟練した職人がいなくなり、後継者も見つからない。
まだ救いがあるのは町工場や個人商店で、
理念をもって堅実に経営されているのを
徳島県内でも目にすることがある。
もしかして最先端の技術を研究している一部上場企業よりも、
自ら機械を設計してそれを操り、
皮膚感覚で高精度の部品を磨き上げていく零細工場の技術者、
職人のほうが優れているのではないか。

「高付加価値のモノづくり」をめざすことが
製造業の呪文となっているが、
付加価値を勘違いしていないだろうか。
使う人の立場に立ったまともなモノづくりができれば、
その価値を判断できる人が適切な価格で買う。
それが差別化であり付加価値だと思うのだが。

買い物難民のボヤキは自分だけかと思えばそうでもないらしい。
その証拠にインターネットのオークションをみれば、
家電製品に限らず、過去の製品が高い価格で売買されている。
ノスタルジーやアンティークではなく、
実際に使うために探しているようである。

買いたいと思える商品がない「買い物難民」が
少なからずいるとすれば、
一見成熟した家電市場にもすきま市場が存在することになる。

それをねらって、
シロモノ家電メーカーが注力することは考えにくいし、
家電メーカーを創業する奇特な人もいないだろう。
だが、企画設計に特化し、
かつて家電メーカーが日本列島に張りめぐらした
販売ネットワークを構築せず、工場さえももたない。

つまり固定費をかけず自社で設計した製品を
委託生産(OEM)する方式でやっていけるのではないか。
言いたかったのは、成熟市場でもじっくり観察すれば、
まだまだ未開拓のニッチ市場はあるということだ。

成功のカギは、経営理念に基づくポジショニングがぶれないことと、徹底した顧客のプロファイリングと
それに基づく潜在ニーズ調査だろう。
想定顧客はどのような困った問題を抱えているか、
どのような期待を持っているかなど、
ライフスタイルおよびニーズ調査を行ってみる必要がある。

ライフスタイル分析では、
ODS社(現 リンク&モチベーション社)が
日本人のライフスタイルを8つに分類しているが、
今回の家電市場は「リョウシキ」層の1/3程度、
「キハン」層の1/4程度、
「クール」層の1/5程度は想定できるのではないか。

総じて人口の1〜2割程度は
本質的な価値を判断して買い物をする顧客層ではないかと考える。この層にアプローチできているのは、
かろうじて「通販生活」ぐらいではないか。

この層はインターネットとの親和性が高いので、
通信販売が適切だ。
店舗を設置して顧客に実機をデモして
それをネット上に発信できるとなお良い。
見も知らずの高額商品がインターネットで売れるのかと
疑問に思う人もいるだろうが、
理念を訴えながら使用価値(使う人にとっての利点)を
客観的に提示できれば道は開けるだろう。.


(以下、「ライフスタイルマーケティング」
(ODSマーケティングコンサルティングチーム著から引用)
●アチーブ(自立達成型 11.4%)
知識教養、トレンド、アートまで幅広く関心を持ち、達成感を糧に自己向上していくタイプ。

●プレジャー(消費快楽型 10.1%)
流行モノや通俗的な楽しみとブランドモノが好きで、自ら中心的存在となってミーハーなことをポジティブに楽しみたい。

●ナイーブ(感性・感覚型 8.3%)
目立ちたい意識が強く、流行関心が高く感覚的判断をする。子どもっぽいところもある。

●リョウシキ(良識・社会型 14.9%)
ビジネス、政治や環境など社会全体に関心が高く、社会的な責任感や道徳意識を持ち、新たな知識教養を取り入れるタイプ。

●ヘイオン(中庸雷同型 22.3%)
家族みんなおだやかな生活を過ごすために、一生懸命がんばっている。無難で人と同じであると安心する。

●キハン(保守規律型 13.3%)
地域の交流、お中元・歳暮といった昔ながらの習慣・モラルを守り、地に足のついた日常を暮らす。

●ヤリクリ(やりくり倹約型 9.9%)
経済的・精神的な余裕がなく、どうにかやりくりして毎日を過ごしている。目先の生活に追われながらより豊かな生活への憧れが強いが、なかなか実現できない。

●クール(静的無関心型 9.8%)
物事に対する関心が低く、自ら何かを発信することに思い入れはない。世の中を少し斜めに見ているところもある。

 

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