巻き込み〜ひとりで走り出してみんなを巻き込もう


経営支援をしていても、まちおこしをしていても、当事者がやる気にならなければうまく行かない。儲かる仕事などない。うまくいく事例などない。まちの特性、企業の特質は異なるからよその成功事例を導入しても決して成功することはない。

計画を実行する過程でさまざまな課題や困難が出てくる。そのときに、ほんとうにやりたいこと、自分がやらなければという信念があれば、きっと越えていけるはずである。

目標の達成度は定量的に評価できるのが望ましい。行政の施策評価、企業の戦略評価などに数値目標が掲げられるのはそのためで、目標を達成したとすれば、どのような変化がどの程度表れるかを把握しておく必要がある。そのことは良いことだけれど、数値目標を置くことが目的化しているようにも感じられる。すなわち数値を達成することに主眼が置かれ、それが何を意味するか、どんなプロセスを積み上げていくか、どんな影響があるかに思いをはせず、数値を達成すれば可という短絡的な行動に結びつく懸念がある。

成果につながる思考や行動パターンがある

コンピテンシー評価という考え方が取り入れられ始めている。これは、ものごとがうまく行く考え方や行動特性に注目し、中長期的に成果を出しうるパターンを持っているかどうかを見るもの。専門性といった技術的な要素に加えて、リーダーシップや共感などコミュニケーション能力、さらに環境変化への対応性、すなわち問題発見・解決能力を見る。成果主義が短期的、結果的、氷山の表面を見ているとすれば、コンピテンシー評価はその成果につながる氷山の隠れた部分を見ているともいえる。

望ましいコンピンシーを持っていると、どのような場面でも成果を出しうる可能性が高い。もちろん、いつもいつも成功するわけではない。状況や運に恵まないこともある。しかし中長期的には成果を生み出していくことだろう。

これとは逆にコンピテンシーが低いのに成功する場合もいる。たまたま時流に乗るなど条件が偶然揃った、まぐれ当たりのホームランである。それゆえ一度成功しても、次の手を間違えて急降下するなど持続性がない。会社や人材が有望かどうかは、コンピテンシーレベルをよく見る必要がある。

ある人材が特定の役割を担うための技術能力を持っていれば、特定の作業を職人的にこなせる(=スペシャリスト)が、環境の変化で能力が陳腐化することもある。これに対して、コンピテンシーの高い人材は、どのようなときにも対応力を備えている(=プロフェッショナル)。いまの時代に求められているのは、プロフェッショナルである。

成果につながる段階を描く

コンピテンシーの高い人材は、成果につながる行動をどのように積み重ねるかを描ける。いわは成功に至るまでのプロセスマップである。

このプロセスの積み上げを、数年前に徳島市で行われた第十堰住民投票の事例で見てみよう。ここに至るまでに市民や市民団体の取った行動や考え方を見ていくと、小さな成功体験を積み重ねる過程が見えてくる。

(1)知らせる段階〜現状分析(1993年〜1995年)
 「第十堰改築事業」が現堰の改修ではなく、第十堰を撤去して新たに巨大な可動堰をつくる計画であることがほとんど知られていなかったため、著名人を招いてのフォーラムやアンケート調査結果を実施するなど、計画の内容を伝える活動を中心に行った。

(2)拡げる〜情報発信と参画の場の提供(1995年〜1996年)
 事業主体である当時の建設省をフォーラムなどに招へいし、疑問点や判断材料を提示して見る人に委ねた。反対運動的な行動をとらず、事業主体とともに話し合うことが評価され「徳島スタイル」と呼ばれた。

(3)議論と説得(1996年〜1998年)
 第十堰審議委員会が設置されたことを受けて、各方面からの専門家の支援(ボランティア)を得て、技術的、客観的な立場からの問題提起、反論、提案を行った。

(4)まきこみ、住民投票実施に向けての準備(1998年〜2000年)
楽しい雰囲気を伝えながら市民へ参加を呼びかけ、プラカード作戦など視覚的にもわかりやすい方法を展開。資金力に乏しいなかで啓発マンガやパンフレットの作成、地域での出前講座などを実施して地道に事実を伝えていった。このことが、住民投票条例制定から住民投票実施へとつながっていく。

これらの過程でマスコミを有効に活用した(マスコミが取り上げざるをえない打ち出し方、仕掛けを行なった)こと、ひとりよがりの運動にならないよう留意しながら市民への共感の輪を拡げていったことも重要な成功要因である。

徳島市の住民投票は地方自治と住民との関わりに一石を投げかけたが、コンピテンシーからみれば成果を出しうる動き方をしていたといえる。

非公式な動きを公式な組織が支援する

新たな試みをしようとする中小企業、商店を支援するために、中小企業創造活動促進法、中小企業新事業活動促進法などに基づいて、研究開発の事業化、経営革新の支援が行われた。事業所は、リスクを背負って新たな取り組みを行うのだが、すべての試みが成功するわけではない。せっかくの技術が陳腐化したり、慣れない販路開拓に苦労する場合など困難な曲面に出会う。

けれど、行動をかたちにしたとき変化が表れる。これまで出会えなかった人、企業、協力者などとの出会い…。当初の目論みとは異なったとしても別の角度から光を当てることに成功する場合もある。こうして自ら動いたことから運命が動き出す。

まず動くこと。動く人を殺さないこと。周囲の反対があっても熱意のある人がそれを押し切って走り出す。夢を語り行動を止めないで走り続ける。その行動は信念(軸)があってぶれることはなく、利他であるから本人も楽しい。少しずつ小さな成功体験を積み重ねるうち、共感の輪が広がって賛同者が増えていく。

そんな非公式な動き、楽しい行動グループを、公式組織(資金力、計画力、コーディネート力などの支援スキーム)が支援するようになればいい。中心市街地活性化、地域共同体、むらおこしも同じ。みんな誰か動かないかなと思っている。できればコンピテンシーの高い人が。


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