経営規模とリーダーシップ


個人創業して6〜7年、念願の法人化にこぎ着けた30代の社長と面談していて尋ねられた。「夢のように思われるかもしれないが、年商百億円をめざしている。このままの経営手法、では達成できないことはわかっているが、どのようにすればよいだろうか?」。

当社は、経営革新計画の認定を受け、業界では新規性のある事業を展開している。関連する二つのサービスを総合的に展開するというのが新規性で、これまで県内にはなかった(全国的にも珍しい)という。当社の成長にはメイン銀行も期待しているようで、プロパー融資を打ったり、本部の営業責任者がと支店長とともにあいさつに来たりしている。

当社の現在の売上高は数千万円であるが、現場のこまごまとした手順ややり方を指図するなかで切り開いてきた。社長の頭のなかには社長の「標準」がある。そのためスタッフは指示待ちの感がある。これではいけないと仕事を任せるのだが、やはりスタッフは社長の指示を仰ぐ。報連相がよくできていると評価できることかもしれないが、社長は常識的に判断できることまで聞いてくるので首をかしげている。

実は年商数千万円と1億円では管理手法が違う。社長自ら陣頭指揮を取り、現場を仕切り、すべてに目を光らせて熱意を注いでようやく年商一億円に達する。

会社が成長し、一定のレベルに達すると伸び悩むので、取り扱い商品やサービスを拡充、支店、営業所の設置などに取り組む。その結果、経営資源が分散して多少売上高が伸びたとしても利益は以前と変わらない結果となることが少なくない。より多くの固定費(雇用人件費など)を賄えるようになったという社会的な評価はできるだろうが、収益性は変わっていないのだから、これは「足し算」による成長である(現実には、売上が2倍になっても利益は2倍にならない事業所が大半であろうが)。

ところが、売上が2倍で利益が4倍になるような成長がある。確固たる経営方針を定め、それを実現すべく経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)をうまく配置することで、入力と出力の関係が1以上となる「掛け算」が成立する成長である。資本(あるいは経営資源)を効果的に動かし、いわばテコの原理でリターンを得る感覚である。

それを成し遂げるしくみが「ビジネスモデル」である。自社、競合他社、業界の新規参入の度合い、代替ビジネスの可能性、仕入先、顧客との相対的な関係から差別化、競合優位性を築き、ビジネスの主導権を獲得するしくみである。

20代の女性担当者一人を置いて、インターネットで建材を販売して部門売上が1億円になった企業が徳島にはあるが、これとて、配送と倉庫機能は外注し、営業に特化している。それがビジネスモデルである。儲かるビジネスモデルは、ITや環境関連など一般的に硬直化していない業界に多いだろうが、成熟〜衰退期にさしかかった業界でもビジネスモデルの構築は十分に可能だと思う。

さて、当社の話に戻ろう。これまでの当社の発展は、業界の総合サービスをめざす社長が、経営資源を見ながら二つの方向で少しずつ手を拡げて獲得してきた。例えば、不動産業の会社が住宅建設部門に進出する事例がそうだ。若い頃は賃貸で、結婚して子どもができれば建築を、晩年は二世帯住宅のリフォームなどライフスタイルに応じてお付き合いできるという考え方である。

社長は、総合的に展開することに意味があるという。これまでの業界は、不透明な料金や買ってみるまで安心できるかどうかがわからないため顧客満足度が低い(顧客不信度が高い)と思われていた。社長は、顧客の安心につながるよう、すべての情報を提供することで信頼を得て成長できると考えている。

ぼくの目には、総合的な事業展開が奏功したというよりも、業界のサービス水準を引き上げようとする姿勢に支持が集まっているように思える。だから、いったんは「総合」という文字を頭からはずしたほうがよいとお話しした。人間一人の生産性(一人当たりの限界利益額)には限りがある。いくら社長が全方位でがんばっても、それは組織のなかで個人への依存度が高まるばかりである。ある限度まではそれが成長の原動力にもなるのだが、どこかで現場の自主性、スタッフの能力を引き出す方向に転換しなければならない。

そのためには、経営者(リーダー)がさらに一皮剥けなければならない。権限委譲につとまとう多少の誤差を飲み込む度量と柔軟性、信念に基づくシンプルな行動規範(モットーはひとつで良い。ひとつのことさえ徹底するのはなかなかである)が必要であろう。清掃やあいさつなど基本の徹底はその最たるものだ。基本とは精神論的なものではなく、戦略的なツールと捉えたい。儲かっている会社は、清掃や整理整頓が行き届いているという事実が厳然とあるのだから。

注)経営革新計画…中小企業新事業活動促進法に基づく経営革新計画(事業展開に新規性を盛り込んで付加価値額を増加させる計画を立案)を作成して認定された事業所には、計画実現のために低利融資、補助金、販路開拓支援などの施策が活用できる。国が中小企業支援として近年特に力を入れている施策。

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