「戦略よりも大切なこと〜心の力」



勉強熱心な経営者は「戦略」という言葉が好きだ。この言葉は華やかな色彩を帯び、戦略を語る自らの姿を思い浮かべて酔いしれる。戦国武将、天下取りの物語には心奮い立たせるものがあるし、諸葛亮孔明がさまざまな戦略を繰り広げる「三国志」、地方での政変や派閥争いにまきこまれて苦難に遭遇しようとも誠実に生きる人々を描いた藤沢文学がいまだに人気なのもうなづける。

戦略とは、あるべき姿に向けて、足りない経営資源を補う方策である。「すること・しないこと」を明確にすることともいえる。経営理念や方針を具体化させるための手段であって、重要な課題を解決すべくヒト、モノ、資金、情報、時間などの経営資源を動かす意思決定ともいえる。マーケティングからは、顧客からみた魅力(価値)を創造するプロセスであって、差別化を図る手順かもしれない。定義はさまざまだけれど戦略が重要なのは言うまでもない。けれど戦略は目的ではなく手段であることも事実。

戦略がうまく行かないのは、意思決定(どの戦略を選ぶか、構築するか)の段階ではなく、実行段階での失敗がほとんど。多くの場合は最初に決めた方針が徹底せず、いつのまにか消滅してしまう。

行動段階で失速しないために、誰がいつ何をしてどのような目標に達成するかを書きとめた行動計画(アクションプラン)をつくって戦略の実効性を担保する。できたかどうかを毎月チェックして、できなかったなら原因を探り、関係者の認識の共有をはかりながら修正していく。その場が会議である(ルーティン事項の報告やリーダーの演説会に会議は必要だろうか?)。

会議は、紙資料をなるべく使わず、プロジェクターとホワイトボードを使って、考えをその場で書き込んで目に見えるかたちとする。それに意見を加えていく。できあがった図式や文字はそのままメールで送信して共有。議事録は作成しない。このような会議に、ジャストシステム社の「アイデアマスター」というソフトが有効である。企業の会議に参加して論点整理(イシューツリー)を行うときはこのソフトを使う(1万円でお釣りが来る手頃な価格)。文字を書きとめておくのならテキストエディターが見やすい(「秀丸」を使っている)。

戦略や会議よりも、もっと大切なことがあるとしたら、それは、心の持ち方―。サラリーマンであれ、自営業であれ、農業であれ、自分の仕事に誇りを持ち、夢中になり使命感を持って献身的に取り組む。結果よりも過程を大切にするのは、人の喜ぶ姿を見たいから。そこに愛があると思う。そんな気持ちの人ばかりの組織なら戦略も会議も要らない。遵法経営さえできない企業が続出するなか、高い理想を描いてコツコツと実現させていこうとする経営姿勢があれば、尊敬の気持ちや共感を抱く人は少なくないだろう。

心の持ち方、持たせ方はリーダーの資質に負うところが大きい。リーダーは笑顔とやさしい気持ちで部下に接している。リーダーは自らの仕事は、明るい雰囲気づくりと心得ている。グループ内は命令と服従ではなく、共感と自主性によってつながる。「理屈ではわかるが理想論だ」と見下す限り、企業もリーダーも本質的な成長はない。ただ戦略が当たっただけの持続性のない成長パターンである。

困ったときに助けてくれる社員、取引先、地域の人々がいれば、企業は倒産することはない。資金繰りに困ったとき「社長、私の貯金を使ってください。返済はいつでも構いません」と駆け寄る従業員。「おたくの店がつぶれたら困るから毎日でも買う」という消費者(いくつも実例を見ている)。そのような関係をつくったらどんなにか経営は楽しいだろう。楽しいことのためにする苦労は生きる励みとなるけれど、楽をしようとして苦境に立たされても心の成長にはならない。

人々がつながりあう関係性を持ったビジネスを十数年かけてつくりあげたのが上勝町のいろどり事業の横石さんである。いろどりについては、本、CD(プレゼン)、DVDが出版され、マスコミもよく取り上げる。しくみについてのセミナーも開かれ、ノウハウは公開されている。それなのにつまもの市場での「いろどり」の優位は揺るぎない。ビジネスモデルだけでは動いていかない。商品がユニークなだけでは出発点のひとつに過ぎない。経営を動かすもの、戦略を実のあるものにしていく担い手が人の気持ちであるならば、心の持つ力の深さをもっと知りたい。

 

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