観光から考える未来にヒントがある


 徳島のことを愛し、深く知ろうとする人たちは口を揃えて言う。「徳島はすばらしい観光資源に恵まれている」。そのあとでこうも付け加える。「PR不足だ。とりわけ関東の人はほとんど徳島のことは知らない」。

 前者は同感だけれども、後者はどうだろうか? 多額の予算を組んで大手広告会社に依頼したとしても変わるものはないような気がする。

 その一方で、高齢者が元気なまちとして、まちづくりや産業活性化に関心のある人、自治体職員なら上勝町のことを知らない人はいないし、高校野球で名をはせた池田高校(阿波池田)や、市民運動に精通している人なら徳島市の住民投票が先進事例と理解している。海や川が好きな人は、四国東南部は宝物のような地域(しかも人が少ない)と考える。農産物でも全国有数の特産品をたくさん抱えている。

個別のテーマでは全国一がたくさんあるのだから、こうした地域資源を強みに変えればいいわけだ。今回は数年後の観光のあるべき姿について個人的な希望も交えながら考えてみる。

観光は、従来の名所めぐり、グルメ等の旅行宿泊業の範疇を越えて、地域の基幹産業となり、自立(自律)的な地域づくりのシンボルとしての高付加価値産業となる。以下に例示すると、
  1. 個人事業所の集積や実践事例(例えば、上勝町のいろどり)などの起業家と議論する「産業ワークショップ型観光」、あるいは、「実践事例の成果共有型観光」。
  2. 外部からの一定期間(数ヶ月〜数年間)の研修就労を受け容れ、地域の労働力、将来の担い手として、高齢化と人手不足が深刻な産業、職種に貢献し、研修終了後は自活へ歩み出す「Iターン自律支援型滞在」(これも観光と定義する)。
  3. 健康保持(ウェルネス)に特化し、東洋医学、インド医学の要素も取り入れた予防医学、心身の健康増進を図る集積に滞在する「健康積極増進型体感観光」。一定期間は、人間ドッグ、カウンセリング、食事/運動療法を受けながら地域の人たちとふれあうことも考えられる。拠点として徳島赤十字病院周辺地区など。
  4. 食文化、食育、地産地消を軸に四国巡礼なども含めて地域の「昔ながらの暮らしや風習」「健康粗食」を体感し、生きることを見つめる「10年に一度人生を見直すきっかけ型観光」。いわば人生リセットコース。
  5. 四国、徳島は日本有数の川資源を持つ。水の循環、物質の循環を司る川に着目し、川の文化を学び体感するために、原始の姿の川を再創造する。必要に応じてダム等の人口構造物を撤去し、森林の保水力を高めて洪水調節機能を改善したうえで、ありのままの水の循環、物質の循環を感じてもらう「川の恵みの生態系学習観光」。生態系の重みを肌で感じることから21世紀を始めたい。医学的な遺伝子資源の発掘にも資する可能性がある。ごみ問題(ごみを出さないしくみづくり)や省エネルギー(車に依存しないまちづくり)などもテーマになりうる。
次にどんな行動を起こせばよいのか考えてみた。
(1)20年後のあなたの町を考えるワークショップの開催
  • 自分の住んでいるまちで、20年後にどんな事態が起こるかを地域住民に考えてもらい、身の丈にあった事例で将来を考えてもらう。
  • 観光、産業振興、雇用、健康等が渾然一体となった地域の課題が浮かび上がる。総花的な施策、行政に要望するだけの住民としての関わりは虚しいことを理解してもらう。限られた地域資源を編み込んで磨いてどんな未来をめざすかの合意形成の過程を体感する。

(2)脱パフォーマンス、脱イベント。観光を全県民参加で考える場の設定
  • 有名ではあるが陳腐化したイメージの観光をすべてぬぐい去り、徳島独特の解釈で「観光」を考え直す。ブランドの再構築といってもよい。徳島の「観光」の意義が、国内の一般的な定義と違うイメージを描けるぐらいに尖った考え方をしたい。観光のあるべき姿、コンセプトを無からつくるため、これまでの観光資源を一度はすべて捨てる覚悟が必要。
  • 有名な観光資源を組み合わせただけの場当たり的なアイデアではなく、家庭、地域社会、学校、職場などで、観光とはなにか、人は地域でどう生きていくかの根源を日常的に考える場を設けるところから出発する。根っこがない観光など観光ではない(これは21世紀型観光の重要な定義だろう)。

(3)持続的な地域振興(21世紀型観光)計画
  • 都市計画(国土交通省)、地域経済振興(経済産業省、農林水産省)、福祉(厚生労働省)、環境(環境省、国交省等)の鴨居を取り去って一元的な計画を立案し、地域資源の独自性を高めて集中的にハード、ソフト両面から支援する。条例制定、構造改革特区等を活用した計画的戦略的な地域形成を行う。県内モデル地域1〜2想定。
  • 計画策定、実現の方策については、熱意あるリーダーのもと、地域住民が主体的に関わるものとし、地域エゴ、利権を排して未来社会を築く。

方策としてはは、施策の企画段階から有志を募り、官民協働による企画/計画策定/実行作業を行う。できれば行政に加えて多くの地元住民、企業等が出資する運営法人を設立したい。
  • 意見を聴いて事務局(行政)が作業をするのではなく、ともに責任を持って最後までやりきる態勢を敷く。
  • 現場を知り、法令、施策を知るチームが問題意識を共有し揺るぎない理念を持ってやりきるためには、担当者が1〜2年で交替するのではなく(ここに予算の目に見えないムダがある)、数年間は缶詰となるプロジェクトが必要。熱意と思いが時代と人々を動かしていく。
  • ただしひとりよがりにならないよう、情報の発信とコミュニケーションとともに、官民相互に一定期間の作業を冷静に評価しあうしくみは必要。
  • 運営法人は行政の補助を受けずに自立することが不可欠。そのために収益事業のしくみをきっちりと描く。
やはり県民一人ひとりの自覚と行動が重要だ。

珊瑚の海を見下ろす棚田とビオトープ。外からの新しい考え(風)に地元の知恵が加わる。それが持続的な未来へ橋渡す風土となる(牟岐町)。

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