未来の利益を求めて好循環への投資


 生活格差が広がっていることを示すデータが多数存在する。生活保護世帯は全世帯の1/10に及び、4〜5世帯に1世帯は貯蓄がない。経済苦での自殺がここ10年で急増して年間3万人、子どものいる家庭の6割が「生活が苦しい」と回答。年収600万円〜1千万円の世帯が減少したことが百貨店の売上が10年で2兆円減となる要因となっている。

 その一方で富裕層を標的としたビジネスは活性化している。鼻にやさしい王子ネピアの「超鼻セレブ」(1箱1500円のティシュー)は即日完売したし、豪華客船クルージングは価格の高い部屋から予約が埋まる。環境にやさしいハイブリッド車を選ぶ人たちはガソリン代を節約したいというよりも、地球温暖化防止に貢献をしたいと思うから買っているはずである。

 格差が広がるのは生活者だけではない。企業も同様だ。「売上が上がる→投資に回せる→次の展開ができる→魅力が高まる」の好循環となるが、その逆は「売上が下がる→投資に回せない→次の展開ができない→魅力が低下」の悪循環となる。

 悪循環となれば、抜本的な解決に取り組めないので、「あと1時間、みんながんばって残業しよう」「ひとり3件の新規顧客をお願いすること」「会議は休日にしよう」などと、場当たり的根性論の世界に陥る。日常を描写するなら、会社の方針がなくて顧客の要求に振り回され、長時間の会議と上司への報告資料の作成で残業が続き、良いと思ったことはあれもこれも試みるが中途半端で成果が出ず、心と身体の疲れのみが蓄積され、明日のことなど考えられない疲弊企業となる。

 どうして悪循環に陥ったのか? それは、経営理念、戦略、行動が一環していなかったことと、未来(3〜5年後)の利益の原泉がどこにあるかを考えずに進んできたからと考える。事業の領域を定めたら戦略や日々の行動を一致させていく。

 経営資源の選択と集中のためには、どこに立つかを明確にする。言い換えれば競合とは違う領域で優位を築いていく(競合がないから優位が築けるともいえる)。顧客のニーズに対応して、あれもこれもやっている企業と比べて顧客のイメージが濃厚となる。そのことが顧客の指名率を上げ、価格競争から離れて信頼関係の構築につながる(それがブランドである)。

 限られたヒト、モノ、カネ、ノウハウで信頼を獲得するためには、事業の絞り込み=顧客の絞り込みが必要である。当社が提供するものと、顧客の求めるものが食い違っていたら、お断りするぐらいの気持ちが必要だ。そのためには、自社の経営姿勢を明確に打ち出す。来てみてから場違いだったと顧客に思わせた企業は顧客を数十人失ったことになる。社内的な表現でいえば、顧客を教育し、当社に合う顧客に来てもらうこととなる。

 未来の利益とは、3〜5年後にどんな顧客を相手にどんな事業でどのようにして利益を得るかである。そのしくみ(ビジネスモデル)を数年でつくりあげなければならない。近い未来であるから、いまの事業の持つ強みを磨いていくことになるので、いまの客に関連する商品を販売するか、これまで相手にしていなかった客にいまの商品を売るなど掘り起こしが中心となる。

 または、専門化して広域商圏化することも良いだろう。1万平米の全国FCのドラッグストアが隣に進出してきた薬局があったとする。従来の品揃えのままだと退店という選択肢もあるわけだが、例えば、女性向けの漢方薬専門店と位置づけ、女性スタッフのカウンセリングによって付加価値を付ける。女性の悩みに親切に対応できれば高価な漢方薬を販売できる可能性は高いし、大型店の集客力を利用できるだろう。

 飲食店をめざすとしても、建設業が新分野進出で飲食店を経営するとなると、よほどノウハウがないと敷居は高く得られる利益も少ないが、産直市が飲食店を併設すると、新鮮な素材を安価に調達できるので理に叶っている。何が儲かる商売かではなく、自分の持つ強み(顧客から見た価値、利益の原泉となるスキルや特質)と外部環境を見ながら未来の利益はどこから来るかを判断することになる。

 生活者の二極分化は、経営方針の二極分化も意味する。ひたすら価格だけを追う(生活上そうさぜるをえない)人たちに向けてコストダウンして価格訴求の量販を行うビジネスモデルと、こだわり、安心安全、ホンモノを求める生活者に、十分かつ納得できる情報提供を行い、密なコミュニケーションによって信頼を得て囲い込み(顧客からみればブランド)をしていくかのどちらかだろう。

 現時点での結論は、次の図式ではないかと思う。しっかりとした経営理念(それは社内外に向けてのメッセージ)がある。例えば「当社では、経常利益の30%を環境保全活動を行うNGO、NPOに寄付しています。内訳は、これこれ。その成果はこれこれ」。この企業の商品を買うと社会に貢献できるという感覚が生活者の共感を呼ぶ。

 次に地元一番の発想である。鮮度の高い野菜を手頃な価格で手に入れられる産直市は、農業生産物の流通を短縮化したもので、従来流通機構が持っていた品揃え機能、配送機能、決済機能を自社で処理して流通経路の短縮を実現している。このスキームでは、付加価値のかやの外に置かれていた生産者(農家)の所得が向上するなと農業振興にも役立つ。しかも流通では弾かれていた規格外(栄養価や味は変わらない)を流通させることができる。

 大多数の企業では、情報を適切に伝えていくことができていないが、メッセージ×地域密着×情報は掛け算である。
 企業体力があるうちに、研究開発、情報発信、人材教育の3つの投資を適切に行い、好循環への扉を閉めないようにしたい。




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